2.6 微分不等式とグロンウォールの不等式
積分記号を美しく表示するのは、難しいので 区間 [a, x] 上の積分を ∫[a,x] で表わす。
微分不等式 とは、微分方程式の等号を不等号に変えたものと言える。
定理 2 φ(x), Ψ(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数 とする。
[a, b] 上の関数 y = y(x) が不等式
(2.23) y' + φ(x)y ≦ Ψ(x)
をみたすならば x∈ [a, b] に対して不等式
(2.24) y(x) ≦ exp(- ∫[a,x] φ(t)dt ){y(a) + ∫[a,x] Ψ(t)exp( ∫[a,t] φ(s)ds)dt}
がなりたつ。 とくに φ(x) ≡ A > 0, Ψ(x) ≡ B ならば 結論 (2.24) は、
(2.25) y(x) ≦ exp(-A(x-a)) y(a) + [B/A] (1 - exp(-A(x-a))
となる。
(証明) u = exp(∫[a,x] φ(t)dt ) >0 とおく。 (2.23) の両辺に u > 0 を掛けて
y'u + φ(x)uy ≦ uΨ(x). ところで、 積の微分公式より
(yu)' = y'u + u'y = y'u + φ(x)uy なので、 この不等式より
[d/dx](y(x)u(x)) ≦ Ψ(x)u(x)
がしたがう。 この不等式を a から x まで積分すると
y(x)u(x) ≦ y(a)u(a) + ∫[a,x] Ψ(t)u(t)dt
y(x) ≦ exp(- ∫[a,x] φ(t)dt ){y(a) + ∫[a,x] Ψ(t)exp( ∫[a,t] φ(s)ds)dt}
がいえる。 これは、 (2.24) に他ならない。
さらに φ(x) ≡ A > 0, Ψ(x) ≡ B のときは、(2.24) に代入すると
y(x) ≦ exp(-A(x-a)) {y(a) + B∫[a,x] exp(A(t-a))dt }
となり、積分を実行すると (2.25) が得られる。 (証明了)
微分不等式 に対応して、積分不等式 というのがある。
これは、微分不等式を積分した形の不等式である。 その例である応用上有益な
グロンウォールの不等式 をのべよう。
定理 3 φ(x), y(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数で φ(x) ≧ 0 とする。
c は実定数とし、 y = y(x) が 積分不等式
(2.26) y(x) ≦ c + ∫[a,x] φ(t)y(t) dt
をみたすならば x∈ [a, b] に対して不等式
(2.27) y(x) ≦ c exp(∫[a,x] φ(t)dt )
がなりたつ。
(証明) F(x) = ∫[a,x] φ(t)y(t) dt とおく。 φ(x) ≧ 0 なので (2.26) の両辺に φ(x)
を掛けると φ(x) y(x) ≦ c φ(x) + φ(x) F(x) . 一方 F'(x) = φ(x) y(x) なので
この不等式から、 F(x) に関する微分不等式
F'(x) - φ(x)F(x) ≦ c φ(x)
が得られる。 よって、定理 2 より F(a) = 0 に注意して
F(x) ≦ c exp(∫[a,x] φ(t)dt ) ∫[a,x] φ(t)exp(- ∫[a,t] φ(s)ds)dt
ここで、(2.26) を使うと
y(x) ≦ c + F(x) ≦ c + c exp(∫[a,x] φ(t)dt ) ∫[a,x] φ(t)exp(- ∫[a,t] φ(s)ds)dt
= c { 1 + exp(∫[a,x] φ(t)dt ) ∫[a,x] [- (d/dt) exp(- ∫[a,t] φ(s)ds)] dt }
= c { 1 + exp(∫[a,x] φ(t)dt ) [- exp(- ∫[a,x] φ(s)ds) + 1]}
= c exp(∫[a,x] φ(t)dt )
となり結論 (2.27) が従う。 (証明了)
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