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2015年7月7日火曜日

微分方程式講義(2015年版) XVI

6.3 解の安定性について


 
 この節では、ベクトル微分方程式に対する解の安定性の議論を行う。
 
ベクトル x = ( x1, ・・・, xn ) ,  とベクトル値関数 
 
 f(t, x) = ( f1(t, x1, ・・・, xn ), ・・・, fn(t, x1, ・・・, xn ) )  に対して
 
連立微分方程式 
 
(6.6)         =  f(t, x   
 
を考える。 この微分方程式に対し初期条件

(6.7)        x(τ)  =  c   
 
をみたす解を  x =  x(t ; τ, c)   と書く。 

ここで、微分方程式 (6.6) は、初期条件 (6.7)  のもとで、

唯一つの解を持ち、しかもその解は、 t → ∞ まで定義されているとする。
 
このとき、つぎの 安定性 の定義を与える。 
 
 
定義 (i) t ≧ t0  で定義された (6.6) の解 x0(t)  が安定である。
 
⇔ 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0  に対し、  ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで  
   
    || x0(τ) - c || < δ  ⇒ || x(t ; τ, c) - x0(t) || < ε  (t ≧ τ )
 
           
     とできる。
 
 
  (ii) t ≧ t0  で定義された (6.6) の解 x0(t)  が漸近安定である。
 
⇔  任意時間 τ ≧ t0   に対し  ある δ = δ(τ) を選んで  
   
 
    || x0(τ) - c || < δ  ⇒    lim t →∞ || x(t ; τ, c) - x0(t) || = 0
 
           
   とできる。
 

何やら、定義は ε-δ 論法を使っていて分かりにくいが、感覚はつぎの通りである。

安定性その解の近いところから出発した解は、常にその解の近くにとどまる

漸近安定性その解の近いところから出発した解は、時間がたつにつれその解に近づく


さて、x0(t)  が (6.6)  の解であるとき、  
 
                             f1(t, x) = - x0˙ + f(t, x + x0(t))    
 
 
 とおくと、 微分方程式
 
(6.7)         =  f1(t, x
 
は、    x(t) ≡ 0  を解にもつ。 

したがって、 (6.6) の解 x0(t)  安定性漸近安定性 調べることと、 

f(t, 0) = 0  のもとで  

(6.7) の零解 x(t) ≡ 0   の 安定性漸近安定性 を調べることは同値である。
 
 
さて、前節で調べたことから、つぎのことが確認できる。
 
 A = ( ( a, c )t , ( b, d )) を 2×2 行列として、
 
(i) の場合、(ホ)の場合のみ、つまり  λ1 ,  λ2 が共に、負の場合のみ、解軌道は原点に向かう。
   
(ii) の場合、(ハ)、(ハ)' の場合のみ、つまり Aの固有値の実部が負の場合、解軌道は原点に向かう。 (ロ)、(ロ)' の場合、つまり Aの固有値の実部が 0 の場合、 原点を内側にして回る周期(円)軌道になる。  
 
 (iii) の場合、(ハ)の場合のみ、つまり Aの固有値が実数の重根でかつ負の場合のみ、
 解軌道は原点に向かう。
 
 
以上の事を纏めて述べると、つぎ定理が得られる。
 

定理 1 連立線形微分方程式

(6.8)         =  ax + by ,    y˙ =  cx + dy     (a,b,c,d は定数)

に対し A = ( ( a, c )t , ( b, d ))  とおく。 

(1) A の2つの固有値が 

      (i) 負の実数(重根の場合を含む)
または、
      (i) 複素数でその実部は負の実数

ならば、 (6.8) 零解 (x, y) = (0, 0) は、 安定かつ漸近安定

である。

 
(2) A の固有値 純虚数 ならば、 零解は、 安定であるが

 漸近安定ではない。

 
 
つぎに、非線形自励系零解漸近安定性の定理を与えよう。 
 
              x = ( x1, x2 ) ,    A = ( ( a, c )t , ( b, d ))
 
       f(t, x) = ( f1(t, x1, x2), f2(t, x1, x2) )t     として、 連立微分方程式
 
(6.9)         Ax + f(t, x)    
 
を考える。 ここで、A は定数行列で f(t, x)   は連続かつ滑らかで、
 
   f(t, 0) = ( f1(t, 0, 0), f2(t, 0, 0))t    = (0, 0)    
 
とする。 このとき、つぎの定理が成り立つ。
 
 

定理 2 微分方程式 (6.9)     において、行列 A は 定理1
 
(1)の (i) または (ii) の条件をみたすとする。 さらに f(t, x)  が
 

                 lim ||x||→0 || f(t, x) ||/ ||x|| = 0    ( t について一様)

 

 をみたすならば、(6.9) 零解は、 漸近安定 である。
 
 
(証明) x(t)  、 [t0, ∞) で定義された (6.9) の解とする。 以下簡単のため、 

t0 = 0 とする。 このとき、 x(0) =  としたときの (6.9) の解は、

5章で証明したように(定数変化公式)、
 

(6.10)         x(t) exp(tA)c + [0,t] exp((t-s)A) f(s,x(s))ds,   t > 0    


 とかける。 さて、A の固有値の実部は負であったから、exp(tA) の性質から、 

 
ある K>0   と σ>0  が存在して
 
          || exp(tA)c || ≦ K||c||exp(-σt),    t > 0
 
 
とできる。 よって、 (6.10)  より、 
 
 (6.11)  ||x(t) ||   K||c||exp(-σt) + K[0,t] exp(-σ(t-s))|| f(s,x(s))||ds  
 
 
 ところで、定理の条件より、任意の ε > 0 に対して ある δ = δ(ε) > 0 を選んで  
 
 
    || x || < δ  ⇒   || f(t, x) || ≦ K-1 ε ||x||

とできる。 このとき exp(-σ(t-s)) = exp(σs) exp(-σt)  に注意して、 (6.11) より

不等式  
 
(6.12)          exp(σt) || x(t) ||   K||c||+ ε [0,t] exp(σs)||x(s)||ds  
 
 が成り立つ。従って、2章6節のグロンウォールの不等式を使うと
 
              exp(σt) || x(t) ||   K ||c|| exp(εt)
 
 すなわち 

 
 (6.13)                 || x(t) ||   K ||c|| exp(-(σ-ε)t) ,    t > 0
 
が成り立つ。 今 正数 ε > 0 を   0 < ε < σ  ととり、 勝手な δ>0 に対し、

初期値 c を
 
                      ||c|| <  min { δ,  K-1 δ }
 
ととれば、(6.13)  より、    || x(t) ||  <  δ  がいえるので、零解は安定である。 
 
ここで、 δ  は任意に小さくとれることを注意する。 さらに、このとき (6.13) が成り立つので、
 
           lim t →∞ || x(t) || = 0
 
が言える。 すなわち、 零解は漸近安定でもある。       ■
 
最後に例を一つあげる。
 
 
 
 
これで、 教えるべき内容は全て講義したので 2015年度の 微分方程式講義 

は終了する。 

最後に、教科書の誤植。





それでは、2015年度 数学C 受講学生の皆さん、ごきげんよう。 さようなら。

また機会があれば会いましょう。(実は、まだ試験も終わっていないが。)
 
                                              THE END 


しかし、教科書の内容は終わっていないし、受講生以外の読者もいるので、

この 微分方程式講義 (2015年度)のつづきは不定期で連載する。 
 
 
 
 

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