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2016年6月15日水曜日

微分方程式講義(2016年版)X

4章では、連立線形微分方程式を考える。行列を用いて解を表示する方法を学ぶ。


第4章 連立微分方程式

4.1 定係数連立線形微分方等式 

この章で考える微分方程式は、 1階の 定係数連立線形微分方等式 



(4.1)              y1' =  a11 y1  +  a12 y2   + ・・・ +  a1n yn  +
 f1(x) 
                        y2' =  a21 y1  +  a22 y2   + ・・・ +  a2n yn  +  f2(x) 
                          ・・・      ・・・
           ・・・  ・・・
                        yn' =  an1 y1  +  an2 y2   + ・・・ +  ann yn  +  fn(x) 


である。  ここで、 aij  (i, j =1, ・・・ , n)  は与えられた実定数とし、 

fj(x) (j =1, ・・・ , n)    は  区間 I 上の連続関数とする。 

(4.1) のベクトル表示を与えよう。 

 

以下で述べる行列を用いる解法は、線形代数における行列のジョルダン分解を用いて

一般の n の場合に拡張されるが、煩雑なのでここでは触れない。 

特に n=2 の場合に、非斉次連立方程式系 (4.2) を解くことを考えよう。 

そのために、斉次形 

(4.3)               y' =  Ay

を考える。 このとき、
 




一般の 実係数 2×2 行列 は、定理1 の (i) - (iii) の場合で尽くされることは

あとで証明する。

(証明) (i)   この場合 z = P-1 y   と変換すると  Pz' = y' = A y = AP z  となるから   

   z' =  P-1 AP z  つまり、

(4.4)             z1' λ1 z1 ,         z2' λ2 z      

これを解いて

 (4.5)            z1 =  C1  exp(λx) ,         z2 =  C2  exp(λ2 x)     ( C1 , C2 は、任意定数 )

となるから  解  z  は任意ベクトル ( C1 , C2)t 
を用いて

(ii)   この場合も z = P-1 y   と変換すると (i) と同様にして 

  z' =  P-1 AP z  つまり、

(4.6)             z1' λz +  z2,             z2' λ z   

(4.6) の第2式を解いて  z2 =  C exp(λx)  を得る。 これを第1式に代入すると


         z1' =  λz1 
 +  C2  exp(λx)       ( C2  は、任意定数 )

 となり、この微分方程式を解くと 

         z1 =  (C1  + C2  x) exp(λ x)

を得る。 結局

(iii)   この場合も z = P-1 y   と変換すると (i) と同様にして 

  z' =  P-1 AP z  つまり、

(4.7)             z1' =  αz +  βz2,             z2' =  - βz + αz2    

(4.7) の第1式 ×α から 第2式 ×β を引くと 

(4.8)            α z1' - β z2' =  (α²  +  β²)z1     

(4.6) の第1式 を微分すると β z2' = z1'' -  αz'  なので これを (4.8)  に代入すると

(4.9)            z1'' -  2αz1 '  +  (α²  +  β²)z1  = 0

 を得る。 (4.9) は定係数2階線形微分方程式なので解ける。 その特性方程式は、

      λ² -  2αλ  +  (α²  +  β²)  = 0  

でその2根は、 λ = α ± iβ    となるから

 (4.10)             z1 =  exp(αx) (C1 cos βx +  C2  sin βx)    ( C1  , C2  は、任意定数 )

 (4.10)   を微分して

(4.11)             z1' =  exp(αx) [(C1 α + C2  β) cos βx +  (-C1β + C2 α)  sin βx ]

また

(4.12)             αz1 =  exp(αx) (C1 α cos βx +  C2 α  sin βx )

なので (4.11) と  (4.12)  を  (4.7) の第1式 に代入して β ≠0 でわると

(4.13)             z2 =  exp(αx) (-C1 sin βx +  C2  cos βx )

 を得る。  



次に 定理1 (i), (ii), (iii) における行列 P の構成法について述べよう。

行列 A の固有方程式は、

(4.14)                       |A - λE | =  λ² - (a+d) λ  +  (ad - bc)  = 0  

 であるが、  (i), (ii), (iii) は次の3つの場合に対応する。

(i)   (4.14)  が相異なる 2 実根 λ1,  λ2    を持つ場合、 

すなわち  D = (a+d)² -  4(ad - bc) > 0 の場合

 (ii)   (4.14)  が 2 重根 λ    を持ち b  ≠ 0 または c  ≠ 0 の場合 

 (iii)   (4.14)  が複素数解 α ± iβ (   β  ≠ 0 )   を持つ場合 


(注意)  (ii) で除外的な場合、b  = c  = 0 は、 A 自体が対角行列になり P = E 

としてよい。


P の構成法

(i)  行列 A  の固有値 λ1,  λ2    に対し、 

λ1 に対応する 固有ベクトルを p1   = (p11  , p21)t 
λ2 に対応する 固有ベクトルを p= (p12  , p22)t    とするとき、 P = (p1  p)  とおくと

P-1 AP =  diag (λ1,  λ)     となることは容易に確かめられる。

(ii)  行列 A  の固有方程式の重根 λ    に対し、 λ に対応する 1つの固有ベクトルを 
p   = (p, p2)t とする。 つぎに一般化固有ベクトルを u   = (u, u2),  すなわち

(A - λE) u  = の解とするとき、 P = (p  u )  とおくと

P-1 AP =   (  , 0)t ,  (1 , λ)t  )     となることが示される。


 (iii)   行列 A  の複素固有値 λ =  α ± iβ    ( β ≠ 0)  に対し、 

λ+  = α + iβ  に対応する 固有ベクトルを p+    =  p1 + ip2     と実部と虚部の2つの

実ベクトルにわける。 ここで、 p1   = (p11  , p21)t ,  p= (p12  , p22)t  とする。

このとき、 λ-  = α - iβ  に対応する 固有ベクトルは p-   =  p1 - ip2    

と表わせることを示そう。  

A(p1 + ip) =  (α + iβ) (p1 + ip  であるから、 実部と虚部の比較により

(4.15)              Ap αp1 - βp,        Ap βp+ αp2 

となる。 したがって、 (4.15)  より 

 
(4.16)           A(p1 - ip) = ( αp1 - βp)  -  i( βp+ αp2 )   =     (α - iβ) (p1 - ip 

となるからである。 β ≠ 0 より  p1 と p2  は1次独立である。 

なぜなら、このとき  p+ と p-  は1次独立になり、その正則な変換 

         p1 = [1/2] ( p+ + ip- ), p2 = [1/2i] ( p+  - ip- )

により p1 と p2  が与えられるからである。 

このとき  P = (p1  p)  とおくと (4.15)  より

(4.17)      AP = A(p1  p)  =  (Ap1 , A p)  = (αp1 - βp2 ,  βp+ αp2 )  

                      =   (p1  p) ( (α  , -β)t   , α)t )

となるから   P-1 AP =  ( (α  , -β)t   , α) )  がなりたつ。

これで、定理1の全ての場合に P を構成する手法を述べた。
 

例をあげよう。 



次に 非斉次方程式

(4.2)               y' =  Ay +  f(x)

の一般解を 定数変化法により斉次方程式 (4.3) の解を用いて表現することを考える。 

今までに述べたことから、(4.3) の一般解は、 y = W(x)( C1C2)t  の形に書ける。  

ここで、



このとき、あきらかに W(x) は、 行列微分方程式

(4.18)                  W'(x) = AW(x)

をみたしている。 (4.3) の一般解を定数変化法により 

                           y = W(x)(C1(x), C2(x))t  = W(x)C(x)

 の形で求めよう。  斉次形の一般解の表示における定数ベクトル C を 関数 C(x)

変化させる訳である。  y' = W'(x)C(x) + W(x)C'(x)   なので、 (4.18)  により 

整理すると、

  y' = AW(x)C(x) + W(x)C'(x)   = Ay + W(x)C'(x) = Ay + f(x)

となる。 これを (4.2) に代入すると 、W(x)C'(x) = f(x) がえられる。 

W(x)  は正則行列なのでこれから    C'(x) = W(x)-1 f(x)   すなわち

(4.19)      C(x) = W(x)-1 f(x) dx + C  

をえる。 ここで、C1  は、定数ベクトル。 したがって (4.2) の一般解は
(4.20)      y = W(x) [ W(x)-1 f(x) dx + C1  ]

で与えられる。




  










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