第4章 連立微分方程式
4.1 定係数連立線形微分方等式
この章で考える微分方程式は、 1階の 定係数連立線形微分方等式
(4.1) y1' = a11 y1 + a12 y2 + ・・・ + a1n yn + f1(x)
y2' = a21 y1 + a22 y2 + ・・・ + a2n yn + f2(x)
・・・ ・・・
・・・ ・・・
yn' = an1 y1 + an2 y2 + ・・・ + ann yn + fn(x)
である。 ここで、 aij (i, j =1, ・・・ , n) は与えられた実定数とし、
fj(x) (j =1, ・・・ , n) は 区間 I 上の連続関数とする。
(4.1) のベクトル表示を与えよう。
以下で述べる行列を用いる解法は、線形代数における行列のジョルダン分解を用いて
一般の n の場合に拡張されるが、煩雑なのでここでは触れない。
特に n=2 の場合に、非斉次連立方程式系 (4.2) を解くことを考えよう。
そのために、斉次形
(4.3) y' = Ay
を考える。 このとき、
一般の 実係数 2×2 行列 は、定理1 の (i) - (iii) の場合で尽くされることは
あとで証明する。
(証明) (i) この場合 z = P-1 y と変換すると Pz' = y' = A y = AP z となるから
z' = P-1 AP z つまり、
(4.4) z1' = λ1 z1 , z2' = λ2 z2
これを解いて
(4.5) z1 = C1 exp(λ1 x) , z2 = C2 exp(λ2 x) ( C1 , C2 は、任意定数 )
となるから 解 z は任意ベクトル ( C1 , C2)t を用いて
(ii) この場合も z = P-1 y と変換すると (i) と同様にして
z' = P-1 AP z つまり、
(4.6) z1' = λz1 + z2, z2' = λ z2
(4.6) の第2式を解いて z2 = C2 exp(λx) を得る。 これを第1式に代入すると
z1' = λz1 + C2 exp(λx) ( C2 は、任意定数 )
となり、この微分方程式を解くと
z1 = (C1 + C2 x) exp(λ x)
を得る。 結局
(iii) この場合も z = P-1 y と変換すると (i) と同様にして
z' = P-1 AP z つまり、
(4.7) z1' = αz1 + βz2, z2' = - βz1 + αz2
(4.7) の第1式 ×α から 第2式 ×β を引くと
(4.8) α z1' - β z2' = (α² + β²)z1
(4.6) の第1式 を微分すると β z2' = z1'' - αz1 ' なので これを (4.8) に代入すると
(4.9) z1'' - 2αz1 ' + (α² + β²)z1 = 0
を得る。 (4.9) は定係数2階線形微分方程式なので解ける。 その特性方程式は、
λ² - 2αλ + (α² + β²) = 0
でその2根は、 λ = α ± iβ となるから
(4.10) z1 = exp(αx) (C1 cos βx + C2 sin βx) ( C1 , C2 は、任意定数 )
(4.10) を微分して
(4.11) z1' = exp(αx) [(C1 α + C2 β) cos βx + (-C1β + C2 α) sin βx ]
また
(4.12) αz1 = exp(αx) (C1 α cos βx + C2 α sin βx )
なので (4.11) と (4.12) を (4.7) の第1式 に代入して β ≠0 でわると
(4.13) z2 = exp(αx) (-C1 sin βx + C2 cos βx )
を得る。
次に 定理1 (i), (ii), (iii) における行列 P の構成法について述べよう。
行列 A の固有方程式は、
(4.14) |A - λE | = λ² - (a+d) λ + (ad - bc) = 0
であるが、 (i), (ii), (iii) は次の3つの場合に対応する。
(i) (4.14) が相異なる 2 実根 λ1, λ2 を持つ場合、
すなわち D = (a+d)² - 4(ad - bc) > 0 の場合
(ii) (4.14) が 2 重根 λ を持ち b ≠ 0 または c ≠ 0 の場合
(iii) (4.14) が複素数解 α ± iβ ( β ≠ 0 ) を持つ場合
(注意) (ii) で除外的な場合、b = c = 0 は、 A 自体が対角行列になり P = E
としてよい。
P の構成法
(i) 行列 A の固有値 λ1, λ2 に対し、
λ1 に対応する 固有ベクトルを p1 = (p11 , p21)t
λ2 に対応する 固有ベクトルを p2 = (p12 , p22)t とするとき、 P = (p1 , p2 ) とおくと
P-1 AP = diag (λ1, λ2 ) となることは容易に確かめられる。
(ii) 行列 A の固有方程式の重根 λ に対し、 λ に対応する 1つの固有ベクトルを
p = (p1 , p2)t とする。 つぎに一般化固有ベクトルを u = (u1 , u2)t, すなわち
(A - λE) u = p の解とするとき、 P = (p , u ) とおくと
P-1 AP = ( (λ , 0)t , (1 , λ)t ) となることが示される。
(iii) 行列 A の複素固有値 λ = α ± iβ ( β ≠ 0) に対し、
λ+ = α + iβ に対応する 固有ベクトルを p+ = p1 + ip2 と実部と虚部の2つの
実ベクトルにわける。 ここで、 p1 = (p11 , p21)t , p2 = (p12 , p22)t とする。
このとき、 λ- = α - iβ に対応する 固有ベクトルは p- = p1 - ip2
と表わせることを示そう。
A(p1 + ip2 ) = (α + iβ) (p1 + ip2 ) であるから、 実部と虚部の比較により
(4.15) Ap1 = αp1 - βp2 , Ap2 = βp1 + αp2
となる。 したがって、 (4.15) より
(4.16) A(p1 - ip2 ) = ( αp1 - βp2 ) - i( βp1 + αp2 ) = (α - iβ) (p1 - ip2 )
となるからである。 β ≠ 0 より p1 と p2 は1次独立である。
なぜなら、このとき p+ と p- は1次独立になり、その正則な変換
p1 = [1/2] ( p+ + ip- ), p2 = [1/2i] ( p+ - ip- )
により p1 と p2 が与えられるからである。
このとき P = (p1 , p2 ) とおくと (4.15) より
(4.17) AP = A(p1 , p2 ) = (Ap1 , A p2 ) = (αp1 - βp2 , βp1 + αp2 )
= (p1 , p2 ) ( (α , -β)t , (β , α)t )
となるから P-1 AP = ( (α , -β)t , (β , α)t ) がなりたつ。
これで、定理1の全ての場合に P を構成する手法を述べた。
例をあげよう。
次に 非斉次方程式
(4.2) y' = Ay + f(x)
の一般解を 定数変化法により斉次方程式 (4.3) の解を用いて表現することを考える。
今までに述べたことから、(4.3) の一般解は、 y = W(x)( C1, C2)t の形に書ける。
ここで、
このとき、あきらかに W(x) は、 行列微分方程式
(4.18) W'(x) = AW(x)
をみたしている。 (4.3) の一般解を定数変化法により
y = W(x)(C1(x), C2(x))t = W(x)C(x)
の形で求めよう。 斉次形の一般解の表示における定数ベクトル C を 関数 C(x) に
変化させる訳である。 y' = W'(x)C(x) + W(x)C'(x) なので、 (4.18) により
整理すると、
y' = AW(x)C(x) + W(x)C'(x) = Ay + W(x)C'(x) = Ay + f(x)
となる。 これを (4.2) に代入すると 、W(x)C'(x) = f(x) がえられる。
W(x) は正則行列なのでこれから C'(x) = W(x)-1 f(x) すなわち
(4.19) C(x) = ∫W(x)-1 f(x) dx + C1
をえる。 ここで、C1 は、定数ベクトル。 したがって (4.2) の一般解は
(4.20) y = W(x) [ ∫W(x)-1 f(x) dx + C1 ]
で与えられる。
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