3回目の講義は、この原稿のIIの2章の2節のつづきから始める。
2.4 完全微分方程式
微分形の方程式
(2.9) P(x,y)dx + Q(x,y)dy = 0
において、
(2.10) P(x,y) = ∂F(x,y)/∂x, Q(x,y) = ∂F(x,y)/∂y
となる F(x,y) が存在するとき、(2.9) は 完全微分方程式 という。
このとき、 (2.9) は 全微分 dF(x,y) を用いて
(2.11) dF(x,y) = [∂F(x,y)/∂x] dx + [∂F(x,y)/∂y]dy = 0
とかける。 したがって、 (2.10) をみたすとき、 (2.9) の解は、
(2.12) F(x,y) = C (C は、積分定数)
とかける。 特に F が C²級 とすると
∂P(x,y)/∂y = ∂²F(x,y)/∂y∂x = ∂²F(x,y)/∂x∂y = ∂Q(x,y)/∂x
つまり
(2.13) ∂P(x,y)/∂y = ∂Q(x,y)/∂x
がなりたつ。 実は、逆がいえる。
定理 1 P(x,y), Q(x,y) は、 C¹級 とする。
(2.9) P(x,y)dx + Q(x,y)dy = 0
が 完全形 であるための 必要かつ十分条件は、
(2.13) ∂P(x,y)/∂y = ∂Q(x,y)/∂x
である。
(証明) (2.9) が完全形なるとき、 (2.13) が成り立つことはすでに示した。
逆を示そう。 今 F(x,y) = ∫P(x,y)dx + R(y) として、 R(y) をうまく取れば
dF(x,y) = 0 なることを示すとよい。 ∂F(x,y)/∂x = P(x) なので
∂F(x,y)/∂y = (∂/∂y)∫P(x,y)dx + R'(y) = Q(x,y)
となるように R(y) を決めるとよい。 ところで (2.13) より
(∂/∂x)[Q(x,y) - (∂/∂y)∫P(x,y)dx ] = ∂Q(x,y)/∂x - (∂²/∂x∂y) ∫P(x,y)dx
= ∂Q(x,y)/∂x - (∂/∂y)(∂/∂x) ∫P(x,y)dx = ∂Q(x,y)/∂x - ∂P(x,y)/∂y = 0
となり、 Q(x,y) - (∂/∂y)∫P(x,y)dx は x に無関係、 つまり y だけの関数になる。
よって R'(y) = Q(x,y) - (∂/∂y)∫P(x,y)dx より、 この式を y で積分して
R(y) = ∫[Q(x,y) - (∂/∂y)∫P(x,y)dx ]dy
とすればよい。 実際
dF(x,y) = [∂F(x,y)/∂x]dx + [∂F(x,y)/∂y]dy
= P(x,y)dx + [R'(y) + (∂/∂y)∫P(x,y)dx] dy
= P(x,y)dx + [Q(x,y) - (∂/∂y)∫P(x,y)dx + (∂/∂y)∫P(x,y)dx] dy
= P(x,y)dx + Q(x,y) dy
がなりたつからである。
例をあげる。
積分因子
一般に、微分方程式 (2.9) は完全ではない。 条件 (2.13) を満たさないものは多数ある。
しかし、ある関数 M(x,y) を (2.9) の両辺にかけると、完全になる場合がある。 つまり
(2.14) M(x,y)P(x,y)dx + M(x,y)Q(x,y)dy = 0
が 完全形 になるとき、 このような関数 M(x,y) のことを、積分因子 という。
従って、このとき
(2.15) (∂/∂y)(M(x,y)P(x,y)) = (∂/∂x)(M(x,y)Q(x,y))
がなりたつ。 すなわち M(x,y) は
(2.16) P(∂M/∂y)- Q (∂M/∂x) = M((∂Q/∂x)- (∂P/∂y))
をみたすことが必要十分である。 (2.16) は M について1階偏微分方程式で、
これを解くことは、一般に容易ではない。
しかし特殊な場合には、M を求めることは可能である。
非常に都合のいい条件設定だが、M が x のみの関数となったとする。
このとき、(2.16) の左辺第1項は消えるので、さらに都合のよい仮定だが
(Qx- Py)/Q が x のみの関数であれば 変数分離形として積分因子 M が求まる。
その他の場合も考えられる。 ここでは、この場合も含め3つの特殊な場合を考える。
(i) (Qx- Py)/Q が x のみの関数の場合
M(x,y)=M(x) と考えることができる。 このとき、(2.16) より
dM/dx = [1/Q](Py - Qx) M
となり M(x) = exp ( ∫(Py - Qx)/Q dx) が積分因子となる。
(ii) (Qx- Py)/Q が y のみの関数の場合
M(x,y)=M(y) と考えることができる。 このとき、(2.16) より
dM/dy = [1/P](Qx- Py) M
となり M(y) = exp ( ∫(Qx- Py)/P dy) が積分因子となる。
(iii) P(x,y), Q(x,y) が同次式の場合、 つまり
P(λx, λy) = λn P(x, y), Q(λx, λy) = λn Q(x, y) の場合。
このとき、
M(x,y) = 1/ (xP(x,y) + yQ(x,y)) は、積分因子になる。
これを確かめる。 講義ではこの部分は省略する。
ここで、同次形の特徴づけを用いる。
ここで、積分因子を求めることによって解ける微分方程式の例を2つあげよう。
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