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2017年7月4日火曜日

微分方程式講義(2017年版)XIII

5.2 変数係数連立線形微分方程式


この節では、 A(x) = (aij(x)) を n×n  行列関数として、 連立微分方程式

(5.15)     y' = A(x)y  + f(x),    x ∈ R  

を考えよう。 ここで、 aij(x) は、実数上の連続関数、 

f(x) は、実数上の連続なベクトル関数とする。 

まず 行列のノルムを定義しよう。  A = (aij) とする。 

x(x1,  x2,  ・・・ , xn )t  として、 A のノルム ||A|| を


                    ||A|| =  sup { ||Ax||/ ||x|| : ||x||≦ 1 } 


により定義する。 このとき、次の補題がなりたつ。


補題 1   (i)    ||Ax|| ≦ ||A||・||x||,     ∀x ∈ R 

(ii)       ||AB|| ≦ ||A||・||B||,       ||A+B|| ≦ ||A|| + ||B||    


(iii)       ||A|| = 0   ならば   A = O   (零行列)     

証明は、演習問題とする。 次に 行列関数の微分、積分を A(x) = (aij(x)) 
として、

 dA(x)/dx = (daij(x)/dx)        または、単に   A'(x) = (aij'(x))  

         [a,b] A(x) dx = (∫[a,b] aij(x) dx)  

により定義する。 つまり、行列関数の微分、積分を各要素ごとの微分、積分で定義する訳

である。 つぎの補題も積の微分公式より明らかであろう。


補題 2    y(x)  を n-ベクトル関数として 

z(x) =  A(x)y(x) とおく。 このとき、

 (5.16)            z'(x) = A'(x)y(x) +  A(x)y'(x)



つぎに 行列微分方程式の初期値問題 

 (5.17)            Y'(x) = A(x)Y(x),    ∀x ∈ R ;  Y(x0) = E

   を考える。 ここで、 E は n×n  単位行列とする。  (5.17)  を解くことと、積分方程式 

 (5.18)            Y(x) = E + [x0,x] A(t)Y(t)dt,    ∀x ∈ R

  を解くこととは同値である。 


定理 3  初期値問題 (5.17) の解 Y(x) = Y(x; x0),   x ∈ R  

 が唯一つ存在する。


(証明) 1節と同様に ピカールの逐次近似法 により証明する。 

まづ、 任意の正数 k>0 を固定して、 

閉区間 |x - x0 | ≦ k  上で 積分方程式 (5.18)  を考える。  

第0近似を  Y0(x) = E,   |x - x0 | ≦ k  

逐次的に 第n近似を 

 (5.19)   Yn(x) = E  +  [x0,x]  A(t)Yn-1(t) dt,   n ≧1,     |x - x0 | ≦ k  

により定義する。このとき、 

        Yn+1(x) - Yn(x)  [x0,x]  A(t)(Yn(t) - Yn-1(x))dt

であるから、補題1より


(5.20)  ||Yn+1(x) - Yn(x) || = ||[x0,x]  A(t)(Yn(t) - Yn-1(x))dt ||
                         ≦|[x0,x]  ||A(t)|| ||Yn(t) - Yn-1(x)||dt| 
                   ≦ Mk[x0,x] ||Yn(t) - Yn-1(x)||dt| 


ここで、 M= max { ||A(x)||  : |x - x0 | ≦ k  } > 0 は、k に関係する有限の値

である。 

 ||Y1(x) - Y0(x) || = ||[x0,x]  A(t)dt ||≦ Mk[x0,x] 1dt|=  Mk|x -x0

 なので、1節と同様にして


(5.21)    ||Yn+1(x) - Yn(x) || ≦ (Mk )n+1 |x - x0 |n+1 /  (n+1)! 

                                        
 を得る。 これより

                Yn(x) = E + ∑k=1n [Yk(x) - Yk-1(x)],      |x - x0 | ≦ k  


は、区間 [x0- k, x0+k]  で一様に 連続関数 Y(x) に収束する。 よって (5.19)  で

n → ∞ として Y(x) が (5.18)  を 区間 [x0- k, x0+k]  

で満たすことがわかる。

k は任意だったので結局 全ての x ∈ R に対して Y(x) が構成されて、(5.18) 

なりたつ。  解の一意性の証明は、定理1の証明と同じなので、略す。  ■


定理3 の解 Y(x) =Y(x; x0) を (5.18) の遷移行列 といい、 

Φ(x, x0) で表す。

このとき 遷移行列  Φ(x, x0) は、つぎの補題をみたす。


補題 3    Φ(x, x0) は、 つぎの関係式をみたす。 

 (5.22)    dΦ(x, x0)/dx = A(x)Φ(x, x0),   Φ(x0, x0) = E,    ∀x, x0 ∈ R


この補題をつかうと、次の定理が証明される。


定理 4  初期値問題 

(5.23)     y' = A(x)y + f(x),    x ∈ R ;  y(x0) = c    

の解は、  

(5.24)    y(x) = Φ(x, x0)c  + [x0,x]  Φ(x, t)f(t) dt,    x ∈ R 

で与えられる。 

(証明) (5.24) で与えた y(x) が (5.23) をみたすことを示せばよい。 補題3より
 

 
y(x0) = Φ(x0, x0)c = Ec = c,

 

また 補題2 と積分下での微分公式により


 
 
 
y'(x) = Φ'(x, x0)c  + Φ(x, x)f(x) + [x0,x]  Φ'(x, t)f(t) dt  


         = A(x)Φ(x, x0)c  + Ef(x) + [x0,x]  A(x)Φ(x, t)f(t) dt 

         = A(x)(Φ(x, x0)c  + [x0,x] Φ(x, t)f(t) dt ) + f(x)  

         = A(x)y(x)  + f(x),     x ∈ R  


 と なり、(5.23) がみたされる。   ■

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