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2017年7月25日火曜日

微分方程式講義(2017年版)XVI

微分方程式講義の追加原稿の1回目



試験ともレポートとも関係ないのだが、

相軌道解析においては安定性の議論は必須なのでここで解説する。


6.3 解の安定性について


 この節では、ベクトル微分方程式に対する解の安定性の議論を行う。
ベクトル x = ( x1, ・・・, xn ) ,  とベクトル値関数 
f(t, x) = ( f1(t, x1, ・・・, xn ), ・・・, fn(t, x1, ・・・, xn ) ) 

に対して連立微分方程式
 
(6.6)         =  f(t, x   

を考える。 この微分方程式に対し初期条件

(6.7)        x(τ)  =  c   
をみたす解を  x =  x(t ; τ, c)   と書く。 


ここで、微分方程式 (6.6) は、初期条件 (6.7)  のもとで、

唯一つの解を持ち、しかもその解は、 t → ∞ まで定義されているとする。

このとき、つぎの 安定性 の定義を与える。 


定義 (i) t ≧ t0  で定義された (6.6) の解 x0(t)  が安定である。
⇔ 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0  に対し、  ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで  
   
    || x0(τ) - c || < δ  ⇒ || x(t ; τ, c) - x0(t) || < ε  (t ≧ τ )
           
     とできる。


  (ii) t ≧ t0  で定義された (6.6) の解 x0(t)  が
   漸近安定である。
⇔  任意時間 τ ≧ t0   に対し  ある δ = δ(τ) を選んで  
   
    || x0(τ) - c || < δ  ⇒    lim t →∞ || x(t ; τ, c) - x0(t) || = 0
           
   とできる。

何やら、定義は ε-δ 論法を使っていて分かりにくいが、感覚はつぎの通りである。

安定性その解の近いところから出発した解は、常にその解の近くにとどまる

漸近安定性その解の近いところから出発した解は、時間がたつにつれその解に近づく


さて、x0(t)  が (6.6)  の解であるとき、  

                             f1(t, x) = - x0˙ + f(t, x + x0(t))    

 とおくと、 微分方程式

(6.7)         =  f1(t, x

は、    x(t) ≡ 0  を解にもつ。 

したがって、 (6.6) の解 x0(t)  安定性漸近安定性 調べることと、 

f(t, 0) = 0  のもとで  

(6.7) の零解 x(t) ≡ 0   の 安定性漸近安定性 を調べることは同値である。

さて、前節で調べたことから、つぎのことが確認できる。

 A = ( ( a, c )t , ( b, d )) を 2×2 行列として、

(i) の場合、(ホ)の場合のみ、

つまり  λ1 ,  λ2 が共に、負の場合のみ、解軌道は原点に向かう。
   
(ii) の場合、(ハ)、(ハ)' の場合のみ、

つまり Aの固有値の実部が負の場合、解軌道は原点に向かう。 

(ロ)、(ロ)' の場合、

つまり Aの固有値の実部が 0 の場合、 原点を内側にして回る周期(円)軌道になる。
  
 (iii) の場合、(ハ)の場合のみ、つまり Aの固有値が実数の重根でかつ負の場合のみ、

 解軌道は原点に向かう。

以上の事を纏めて述べると、つぎ定理が得られる。



定理 1 連立線形微分方程式

(6.8)         =  ax + by ,    y˙ =  cx + dy     (a,b,c,d は定数)

に対し A = ( ( a, c )t , ( b, d ))  とおく。 

(1) A の2つの固有値が 

      (i) 負の実数(重根の場合を含む)
または、
      (i) 複素数でその実部は負の実数

ならば、 (6.8) 零解 (x, y) = (0, 0) は、 安定かつ漸近安定

である。

(2) A の固有値 純虚数 ならば、 

零解 (x, y) = (0, 0) は 安定であるが 漸近安定ではない



ぎに、非線形自励系零解漸近安定性の定理を与えよう。 


              x = ( x1, x2 ) ,    A = ( ( a, c )t , ( b, d ))



        f(t, x) = ( f1(t, x1, x2), f2(t, x1, x2) )t      として、 

連立微分方程式




(6.9)         Ax + f(t, x)    

を考える。 ここで、A は定数行列で f(t, x)   は連続かつ滑らかで、

   f(t, 0) = ( f1(t, 0, 0), f2(t, 0, 0))t    = (0, 0)    

とする。 このとき、つぎの定理が成り立つ。



定理 2 微分方程式 (6.9)     において、行列 A は 

定理1(1)の (i) または (ii) の条件をみたすとする。


さらに f(t, x)  が

                 lim ||x||→0 || f(t, x) ||/ ||x|| = 0 ( t について一様)


 をみたすならば、(6.9) の 零解は、 漸近安定 である。


(証明) x(t)  、 [t0, ∞) で定義された (6.9) の解とする。 以下簡単のため、 

t0 = 0 とする。 このとき、 x(0) =  としたときの (6.9) の解は、

5章で証明したように(定数変化公式)、

(6.10)         x(t) exp(tA)c + [0,t] exp((t-s)A) f(s,x(s))ds,   t > 0    

とかける。 さて、A の固有値の実部は負であったから、exp(tA) の性質から、 


ある K>0   と σ>0  が存在して


      || exp(tA)c || ≦ K||c||exp(-σt),    t > 0




とできる。 よって、 (6.10)  より、 


 (6.11)  ||x(t) ||   K||c||exp(-σt) 
         + K[0,t] exp(-σ(t-s))|| f(s,x(s))||ds  

 ところで、定理の条件より、任意の ε > 0 に対して 

ある δ = δ(ε) > 0 を選んで  

    || x || < δ  ⇒   || f(t, x) || ≦ K-1 ε ||x||

とできる。 このとき exp(-σ(t-s)) = exp(σs) exp(-σt)  に注意して、 

(6.11) より 不等式  

(6.12)          exp(σt) || x(t) ||   K||c||+ ε [0,t] exp(σs)||x(s)||ds  

 が成り立つ。  従って、2章6節のグロンウォールの不等式を使うと

              exp(σt) || x(t) ||   K ||c|| exp(εt)
 
 すなわち 


 (6.13)                 || x(t) ||   K ||c|| exp(-(σ-ε)t) ,    t > 0

が成り立つ。 今 正数 ε > 0 を   0 < ε < σ  ととり、 勝手な δ>0 に対し、

初期値 c を
                      ||c|| <  min { δ,  K-1 δ }

ととれば、(6.13)  より、    || x(t) ||  <  δ  がいえるので、零解は安定である。 

ここで、 δ  は任意に小さくとれることを注意する。 

さらに、このとき (6.13) が成り立つので、

           lim t →∞ || x(t) || = 0

が言える。 すなわち、 零解は漸近安定でもある。       ■


最後に例を一つあげる。



教科書の定理3.2の記述は、正確ではないことを注意しておく。

f(t, xについての条件は、

      lim ||x||→0 || f(t, x) ||/ ||x|| = 0 ( t について一様)

で、t∈[t0, ∞) についての一様収束性が必要になる。

さらに結論では漸近安定性(安定でなく)までいえる。


次回は追加原稿の2回目である。

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