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2016年7月27日水曜日

微分方程式講義(2016年版)XVI

6章の残りの部分の講義原稿である。阪大の学生さん以外も引き続きこの記事も読んで欲しいと思っています。 以下追加の説明も込めて解説します。




6.4 極方程式と解の挙動




 相空間が2次元で、原点  = ( 0, 0 )  が連立微分方程式の平衡点であるとしよう。
このとき、ゼロ解の安定性や、原点の近傍での解の挙動を調べるのに、
極座標変換が有効になる場合がある。 
 この節では、極微分方程式を導入することにより、解の安定性の議論が
より自然に行われる場合のあることを見ていこう。 a,b,c,d を定数として 微分方程式


(6.14)        x˙ =  ax + by + f(x,y)   
                  y˙ =  cx + dy + g(x,y)  



 を考えよう。 ここで、 f(x,y), g(x,y) は原点の近傍で与えられた関数で

f(0,0)=0,    g(0,0)=0  とする。

これに対し、極座標変換

(6.15)      x = r cos θ,    y = r sin θ        
     
を考える。 

(x,y) が時間 t の関数なので (r,θ) 時間 t の関数と考える。

このとき、合成関数の微分法則より

     x˙ = cos θ - r θ˙ sin θ                    
     y˙ = sin θ + r θ˙ cos θ   



 xcos θ + ②xsin θ より、

     x˙cos θ +  sin θ =   (cos² θ + sin² θ) =      

 xsin θ - xcos θ  より、

   -x˙sin θ +  cos θ =  rθ˙ (cos² θ + sin² θ) =  rθ˙  

つまり、

(6.16)        r˙ =  x˙cos θ +  sin θ 
                 rθ˙ x˙sin θ -  cos θ

だが、これに (6.15) を用いて (6.14) を代入すると、


 r˙ =  (ax + by + f(x,y))cos θ +  (cx + dy + g(x,y))sin θ 
     =  (ar cos θ + br sin θ + f(r cos θ, r sin θ))cos θ 
       +  (cr cos θ + dr sin θ + g(r cos θ, r sin θ))sin θ 
        =  r{a cos² θ + (b+c) cos θ sin θ + d sin² θ}
       +  f^(r, θ) cos θ  + g^(r, θ) sin θ 

 となる。 ここで、

f^(r, θ) = f(r cos θ, r sin θ),     g^(r, θ) =  g(r cos θ, r sin θ)

同様の計算により

rθ˙  x˙sin θ -  cos θ

    = r {c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ}

          -  f^(r, θ) sin θ  + g^(r, θ) cos θ 


以上を纏めて、極微分方程式

(6.17)        r˙ =  r{a cos² θ + (b+c) cos θ sin θ + d sin² θ}

                   
       +  f^(r, θ) cos θ  + g^(r, θ) sin θ ,

                 θ˙  =  (c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ)

                         + (1/r) {-f^(r, θ) sin θ  + g^(r, θ) cos θ} 


が得られる。 

このとき、ゼロ解の安定性の定義より、つぎの定理が成り立つことは明らかであろう。



定理 3 (i) t ≧ t0  で定義された (6.14) のゼロ解安定である。
 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0  に対し、  ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで  
   
    r(τ) < δ  ⇒ r(t) < ε  (t ≧ τ )
           
     とできる。
  (ii) t ≧ t0  で定義された (6.14) のゼロ解漸近安定である。
  任意時間 τ ≧ t0   に対し  ある δ = δ(τ) を選んで  
   
     r(τ) < δ  ⇒    lim t →∞ r(t) = 0
           
   とできる。



また、 lim t →∞ r(t) = ∞ ということは、解軌道が原点から遠く離れていくことを

意味する。

θ  = θ(t) については、 lim t →∞ θ(t) = ∞ または lim t →∞ θ(t) = ∞ は、

解が原点の周りを正の方向、または負の方向にくるくる周ることを意味する。

それでは、例をあげていこう。











上の (ii), (iii) の事実から、原点安定であることが分かる。
さらに、原点の任意の近傍無数安定解不安定解が存在していることが分かる。


ポアンカレ・ベンディクソンの定理にはいくつかの表現方法があるが、よく知られたその一つを挙げる。


ポアンカレ・ベンディクソンの定理


相空間(平面)上の次のように定義された力学系を考える。

          x˙ =  f(x,y),        y˙ =  g(x,y)  

ここで S を平衡点を含まない有界閉集合とする。  

また S を含む開集合で f, g は C1級関数とする。

もしある解軌道が S 上に留まりつづけるならば、

解軌道は、閉軌道そのものか、または閉軌道に収束する。



上の例3はそのような閉軌道無数にある場合を与えている。 



ジュール=アンリ・ポアンカレJules-Henri Poincaré、1854年4月29日 – 1912年7月17日)

ナンシー生まれのフランスの数学者。数学、数理物理学、天体力学などの重要な基本原理を確立し、功績を残した。先年解決されたポアンカレ予想でも有名。


また、電気回路に現れる非線形振動として有名なファン・デル・ポール振動子は、

唯一つの極限閉軌道リミットサイクル)を持っている。 つまり、

ファン・デル・ポールの方程式

0



の解軌道については、 平面上に唯一の安定なリミットサイクルを持つ。


解軌道の動きの図


ファン・デル・ポール  (27 January 1889 – 6 October 1959)

オランダの理論物理学者。 英語によるWiki解説は、Dr. Balthasar van der Pol 




以上で微分方程式講義2016年版は終了する。

2016年7月26日火曜日

微分方程式講義(2016年版)XV

最終回の講義記事である。試験の範囲外ではあるが、常微分方程式論では知っておくべき基礎的な議論なので、解説しておきたい。平面上の力学系の挙動を調べる際の基本事項である。最終的には、大域的な閉軌道についてのポアンカレ・ベンディクソンの定理を説明できれば良かったのだろうがとても無理である。

Wiki には、これについての簡単な説明がある。 ポアンカレ・ベンディクソンの定理

時間の余裕がなく、見やすくした以外は昨年度の原稿とほぼ同じなのをお断りしておきます。


第6章 連立微分方程式の解の漸近挙動


6.1 相空間解析

つぎの連立微分方程式の初期値問題を考える。

(6.1)        y1' =  y2,     y2' = - y1  ;   y1(0) = c1,    y2(0)= c2

 この問題の解が、

 (6.2)        y1(x)  =  c1 cos x + c2 sin x ,  
                y2(x) = - c1 sin x + c2 cos x  

で与えられることは、5章で証明した。 これを、行列-ベクトル記法で表現してみる。



上図の円周を (6.1)  の 解軌道 または 解曲線 という。 

このように、独立変数 x  が動くとき、解がどのように y1-y2 平面上を動くかを


考察するする事は重要である。 

このとき、考察すべき y1-y2 平面を 相空間 と言い、この問題の解析を 

相空間解析 という。 

通常の記法にならって、この章では、

                    x → t ,     y1 → x ,    y2 → y

として、 相空間 xy 平面上で考えることにする。 また微分の記法を



          x˙ = dx/dt  ,     y˙ = dy/dt 

のように dot で表す。 



さて、相空間解析においては、つぎの形の連立微分方程式が研究の中心になる。

(6.3)        x˙ = f(x, y),     y˙ = g(x, y) 



右辺の関数 f(x, y), g(x, y) が定義域の各点の近傍でリプシッツ連続なるとき、

前章で証明したように初期値問題の解は一意であるから、 

解軌道は交わらない ことがわかる。


システム (6.3) のように、f(x, y), g(x, y) が時間変数 t  を含まないとき、 
自励系 という。
(6.3) において、f(a, b) = 0,   g(a, b) = 0 となる点 (a, b)  が存在するとき、 

この点  (a, b)   を   (6.3) の 平衡点 または 特異点 という。 


さて、 (a, b)   が (6.3) の 平衡点 して、座標系の平行移動 
     x゜= x - a ,    y゜= y - b
を行えば、 微分方程式  (6.3)  は、  

(6.4)        (x゜)˙ = f゜(x゜, y゜),     (y゜)˙ = g゜(x゜, y゜) 

と書きなおされる。 ここで、


 f゜(x゜, y゜) = f(x゜+ a, y゜+ b) ,     g゜(x゜, y゜) = g(x゜+ a, y゜+ b)
              
であり、 
     f゜(0, 0) = f(a, b) = 0 ,     g゜(0, 0) = g(a, b) = 0

なので、 原点 (0,0)  が、 (6.4)  の平衡点になる。 従って、 原点が 自励系 
(6.3)  の平衡点であるとして一般性は失わない。 
次節では、線形微分方程式に対する相空間解析を行う。   



6.2 連立線形微分方程式の解軌道


a, b, c, d  を定数として、連立線形微分方程式 

(6.5)        x˙ = ax + by,     y˙ = cx + dy

を考えよう。 このとき、 (6.5) は 原点 (0,0)  を平衡点として持つ。 

(6.5) の解軌道の様子は、
行列     ( ( a, c )t , ( b, d )) の 固有値 と 固有ベクトル 

を調べることにより、完全にきまる。 

4章1節で示したように、次の結果がなりたつことを思い出そう。

この解の表示を用いて、t → ∞ としたときの解軌道の様子を描くことができる。 

これらは、λ1,  λ2 , α, β, λ, の符号や値などによって決まる。 

(i)  の場合を調べる。 λ1  ≧  λ2   として差し支えない。 逆符号の場合は x と y を

入れ替えて考えればよい。

(ii) の場合はつぎのようになる。
(iii) の場合は、つぎのようになる。

例を2つあげよう。 教科書と同じ方程式の例である。

 


ここで、 (i), (ii), (iii)  の3つの場合に、軌道図を描く際の注意を述べておく。


 


講義はこれで終了する。線形定数系の議論しかしていなくて、中途半端な内容になったので追加の記事で6章の残りを解説する。

2016年7月12日火曜日

微分方程式講義(2016年版)XIV

5.3  行列の指数関数


前節の結果を、定数行列 A(x) ≡ A = (aij) の場合に考察してみよう。 

(5.25)     y' = Ay,    x ∈ R ;  y(0) = c    

    の解は、 A(x) ≡ A の場合の遷移行列を Φ(x, x0) とすると、

        y(x) = Φ(x,0) c      とかける。 


Φ(x,0) の具体的な形をもとめてみよう。 定理3 の解の構成法により

Y(x) = Φ(x,0) は、次の逐次近似の極限として与えられる。   



Y0(x) = E, 

Yn(x) = E  +  [0,x]  AYn-1(t) dt,   n ≧1



 逐次計算していくと、 

Y1(x) = E  +  [0,x]  A dt = {E  +  xA } 
Y2(x) = E  +  [0,x]  A{E  +  tA }  dt = {E  +  xA + x²A²/2} 

・・・・   ・・・・

Yn(x) = {E  +  xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! } 


 となる。 したがって



Y(x) = Φ(x,0) = lim n→∞ {E  +  xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! } 



である。 行列のノルムに関して この行列級数は x の任意有限区間上で一様収束する。


今 A の指数関数  exp(A) = e  

(5.26)   exp(A) = n=0 Aⁿ/n!  

      = E  +  A + A²/2 + ・・・ + Aⁿ/n! + ・・・ 


により定義する。  

このとき、明らかに Y(x) = Φ(x,0) =  exp(xA) である。 したがって、(5.25) の解は、


           y(x) = exp(xA) c = exA c


で与えられる。


補題 4    exp(xA) は、 つぎの関係式をみたす。 

(i)        exp((x+y)A) = exp(xA) exp(yA),    ∀x, y ∈ R

(ii)       exp(0A) = E = exp(xA) exp(-xA),  


(iii)      d exp(xA)/dx =  A exp(xA) = exp(xA)A     





補題4 と 定義より、次のことはすぐにわかる。


 補題 5    (i)  O を零行列とすると 、 exp(O) = E  


(ii)        exp(A) は常に正則で、 exp(A)-1 = exp(-A)

(iii)       exp(P-1 AP) = P-1 exp(A) P
 
(iv)       AB=BA  ならば、 exp(A+B) =  exp(A) exp(B)
 


つぎに 2×2 行列に対してその指数関数を計算しよう。  





 一般の nxn 行列 A に関しても、Jordan 標準形を用いてその指数関数を計算する方式があるが、ここでは煩雑になるので省略する。

興味のある方は、ジョルダン標準形 行列の指数関数 を見られたい。