6.3 解の安定性について
この節では、ベクトル微分方程式に対する解の安定性の議論を行う。
ベクトル x = ( x1, ・・・, xn )t , とベクトル値関数
f(t, x) = ( f1(t, x1, ・・・, xn ), ・・・, fn(t, x1, ・・・, xn ) )t に対して
連立微分方程式
(6.6) x˙ = f(t, x)
を考える。 この微分方程式に対し初期条件
(6.7) x(τ) = c
をみたす解を x = x(t ; τ, c) と書く。 ここで、微分方程式 (6.6) は、初期条件 (6.7)
のもとで、唯一つの解を持ち、しかもその解は、 t → ∞ まで定義されているとする。
このとき、つぎの 安定性 の定義を与える。
定義 (i) t ≧ t0 で定義された (6.6) の解 x0(t) が安定である。
⇔ 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0 に対し
ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで
|| x0(τ) - c || < δ ⇒ || x(t ; τ, c) - x0(t) || < ε (t ≧ τ )
とできる。
(ii) t ≧ t0 で定義された (6.6) の解 x0(t) が漸近安定である。
何やら、定義は ε-δ 論法を使っていて分かりにくいが、感覚はつぎの通りである。
安定性⇔その解の近いところから出発した解は、常にその解の近くにとどまる
漸近安定性⇔その解の近いところから出発した解は、時間がたつにつれその解に近づく
さて、x0(t) が (6.6) の解であるとき、
⇔ 任意時間 τ ≧ t0 に対し ある δ = δ(τ) を選んで
|| x0(τ) - c || < δ ⇒ lim n→∞ || x(t ; τ, c) - x0(t) || = 0
とできる。
何やら、定義は ε-δ 論法を使っていて分かりにくいが、感覚はつぎの通りである。
安定性⇔その解の近いところから出発した解は、常にその解の近くにとどまる
漸近安定性⇔その解の近いところから出発した解は、時間がたつにつれその解に近づく
さて、x0(t) が (6.6) の解であるとき、
f1(t, x) = - x0˙ + f(t, x + x0(t))
とおくと、 微分方程式
(6.7) x˙ = f1(t, x)
は、 x(t) ≡ 0 を解にもつ。 したがって、 (6.6) の解 x0(t) の安定性、漸近安定性 を
調べることと、 f(t, 0) = 0 のもとで
(6.7) の零解 x(t) ≡ 0 の 安定性、漸近安定性 を調べることは同値である。
(6.7) の零解 x(t) ≡ 0 の 安定性、漸近安定性 を調べることは同値である。
さて、前節で調べたことから、つぎのことが確認できる。
A = ( ( a, c )t , ( b, d )t ) を 2×2 行列として、
(i) の場合、(ホ)の場合のみ、つまり λ1 , λ2 が共に、負の場合のみ、解軌道は原点に向かう。
(ii) の場合、(ハ)、(ハ)' の場合のみ、つまり Aの固有値の実部が負の場合、解軌道は原点に向かう。 (ロ)、(ロ)' の場合は、つまり Aの固有値の実部が 0 の場合、 原点を内側にして回る周期(円)軌道になる。
(iii) の場合、(ハ)の場合のみ、つまり Aの固有値が実数の重根でかつ負の場合のみ、
解軌道は原点に向かう。
以上の事を纏めて述べると、つぎ定理が得られる。
定理 1 連立線形微分方程式
(6.8) x˙ = ax + by , y˙ = cx + dy (a,b,c,d は定数)
に対し A = ( ( a, c )t , ( b, d )t ) とおく。
(1) A の2つの固有値が
(i) 負の実数(重根の場合を含む)
または、
(i) 複素数でその実部は負の実数
ならば、 (6.8) の 零解 (x, y) = (0, 0) は、 安定かつ漸近安定
である。
(6.8) x˙ = ax + by , y˙ = cx + dy (a,b,c,d は定数)
に対し A = ( ( a, c )t , ( b, d )t ) とおく。
(1) A の2つの固有値が
(i) 負の実数(重根の場合を含む)
または、
(i) 複素数でその実部は負の実数
ならば、 (6.8) の 零解 (x, y) = (0, 0) は、 安定かつ漸近安定
である。
(2) A の固有値が 純虚数 ならば、 零解は、 安定であるが
漸近安定ではない。
つぎに、非線形自励系の零解の漸近安定性の定理を与えよう。
x = ( x1, x2 )t , A = ( ( a, c )t , ( b, d )t ),
f(t, x) = ( f1(t, x1, x2), f2(t, x1, x2) )t として、 連立微分方程式
(6.9) x˙ = Ax + f(t, x)
を考える。 ここで、A は定数行列で f(t, x) は連続かつ滑らかで、
f(t, 0) = ( f1(t, 0, 0), f2(t, 0, 0))t = (0, 0)t
とする。 このとき、つぎの定理が成り立つ。
定理 2 微分方程式 (6.9) において、行列 A は 定理1の
(1)の (i) または (ii) の条件をみたすとする。 さらに f(t, x) が
lim ||x||→0 || f(t, x) ||/ ||x|| = 0 ( t について一様)
ならば、(6.9) の 零解 x = (0, 0) は、 漸近安定 である。
(証明) x(t) は、 [t0, ∞) で定義された (6.9) の解とする。 以下簡単のため、 t0 = 0
とする。このとき、 x(0) = c としたときの (6.9) の解は、5章で証明したように、
(6.10) x(t) = exp(tA)c + ∫[0,t] exp((t-s)A) f(s,x(s))ds, t > 0
とかける。 さて、A の固有値の実部は負であったから、exp(tA) の性質から、
ある K>0 と σ>0 が存在して
|| exp(tA)c || ≦ K||c||exp(-σt), t > 0
とできる。 よって、 (6.10) より、
(6.11) ||x(t) || ≦ K||c||exp(-σt) + K∫[0,t] exp(-σ(t-s))|| f(s,x(s))||ds
ところで、定理の条件より、任意の ε > 0 に対して ある δ = δ(ε) > 0 を選んで
|| x || < δ ⇒ || f(t, x) || ≦ K-1 ε ||x||
とできる。 このとき exp(-σ(t-s)) = exp(σs) exp(-σt) に注意して、 (6.11) より
不等式
(6.12) exp(σt) || x(t) || ≦ K||c||+ ε ∫[0,t] exp(σs)||x(s)||ds
が成り立つ。従って、2章6節のグロンウォールの不等式を使うと
exp(σt) || x(t) || ≦ K ||c|| exp(εt)
すなわち
(6.13) || x(t) || ≦ K ||c|| exp(-(σ-ε)t) , t > 0
が成り立つ。 今 正数 ε > 0 を 0 < ε < σ ととり、 初期値 c を
||c|| < min { δ, K-1 δ }
ととれば、(6.13) より、 || x(t) || < δ がいえるので、零解は安定である。
ここで、 δ は任意に小さくとれることを注意する。 さらに、このとき (6.13) が成り立つので、
lim n→∞ || x(t) || = 0
が言える。 すなわち、 零解は漸近安定でもある。 ■
最後に例を一つあげる。
これで、 教えるべき内容は全て講義したので 微分方程式講義 は終了する。
それでは、数学C 受講学生の皆さん、ごきげんよう。
また、機会があればお会いしましょう。 THE END
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