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2017年6月5日月曜日

微分方程式講義(2017年版)VIII

3.3 節のつづき:


システムに対する記号解析 

これまでに述べてきた演算子を用いる 記号解析は、連立微分方程式系に対しても有効である。

簡単のため、以下では 2未知変数 y, z の 定係数連立微分方程式系 を考える。

(3.18)   P1(D) y + P2(D)z = f(x),    P3(D) y + P4(D)z = g(x) 

(3.18)  の第1式に 演算子 P4(D) をほどこし、さらに 第2式に 演算子 P2(D) をほどこし、

それらの差をとると

                           {P1(D)P4(D) - P2(D)P3(D)}y = P4(D)f(x) - P2(D)g(x)   

同様にして

          {P1(D)P4(D) - P2(D)P3(D)}z = P1(D)g(x) - P3(D)f(x)

が得られる。   これより、

(3.19)  y = [1/{P1(D)P4(D) - P2(D)P3(D)}] (P4(D)f(x) - P2(D)g(x)),  

                z = [1/{P1(D)P4(D) - P2(D)P3(D)}] (P1(D)g(x) - P3(D)f(x))

を得るが、 これらは微分の階数に対応する任意積分定数をもつため、

(3.18)  の一般解を与えているわけではない。 この事は、後の例で示す。 

行列式を使ってこのことを表現しよう。  



これから、 y,   z  を求めて 実際にもとの方程式系 (3.18)  をみたすべく決めればよい。

2つの例を与える。


 




3.4 定係数 n 階線形微分方等式



この節では、前節までの結果を用いて 定係数 n 階線形微分方等式 の解の公式を与える。

(3.20)    y(n) + a1y(n-1) + ・・・ + any  = f(x)

とその斉次形

(3.21)    y(n) + a1y(n-1) + ・・・ + any  = 0

を考える。 ここで、 a1,  ・・・,  an     は、定数とする。  

すぐに確かめられるが、 非斉次方程式 (3.20)  の一般解は、 

斉次方程式 (3.21)  の一般解と  (3.20)  の一つの解(特殊解)との和で与えられる。  

したがって (3.21)  の一般解 を求めることが重要になる。 

(3.21)  の解を y = exp(λx) の形で求めよう。 代入すると、

λn exp(λx)  + a1 λn-1 exp(λx)  + ・・・ + an λ exp(λx)   = 0  なので、exp(λx) でわると

(3.22)   λ + a1 λn-1  + ・・・ + an   = 0

が得られる。  この n次方程式が、次のように因数分解されるとする。






非斉次方程式 (3.20) の1つの解は、 前節の定理11により計算すればよい。

最後に未定係数法についてのべよう。 簡単のため、2階方程式で説明する。

(3.1)    y'' + ay' + by  = f(x) 

の特殊解を求める簡便な方法である。 特性方程式

 (3.3)     λ² + aλ  + b = 0

の根を λ1 ,  λ2    とおく。  



(I)     f(x) = A(x) exp(mx);   A(x) は多項式、 m は実数  とする。


(i)    m が (3.3) の根でない場合、 つまり  m ≠ λ1 ,  m ≠ λ2   のとき、

                   y = C(x) exp(mx);         C(x) の次数  =  A(x) の次数  

として (3.1)  に代入して 恒等式の関係から C(x) の係数を決定する。

(ii)  m が (3.3) の単根の時、 つまり  m = λ1  λ1 ≠ λ2     のとき、

                y = xC(x) exp(mx);         C(x) の次数  =  A(x) の次数

として (3.1)  に代入して 恒等式の関係から C(x) の係数を決定する。

(iii)  m が (3.3) の重根の時、 つまり  m = λ1  λ1 = λ2     のとき、

                y = x²C(x) exp(mx);         C(x) の次数  =  A(x) の次数

として (3.1)  に代入して 恒等式の関係から C(x) の係数を決定する。



(II)     f(x) =  (A(x)cos kx + B(x)sin kx) exp(mx);   

A(x),  B(x) は多項式、m は実数     とする。


(i)    m+ki が (3.3) の根でない場合、 つまり  m+ki ≠ λ1  m+ki ≠ λ2   のとき、

                   y = (C(x)cos kx + D(x)sin kx) exp(mx);    

                          C(x),  D(x) の次数  =   Max {A(x) の次数,  B(x) の次数}  

として (3.1)  に代入して 恒等式の関係から C(x),  D(x) の係数を決定する。


(ii)  m+ki  が (3.3) の単根の時、 つまり  m+ki = λ1  λ1 ≠ λ2     のとき、

                y = x(C(x)cos kx + D(x)sin kx) exp(mx);   

                           C(x),  D(x) の次数  =   Max {A(x) の次数,  B(x) の次数}  

として (3.1)  に代入して 恒等式の関係から C(x),  D(x) の係数を決定する。

(iii)  m+ki  が (3.3) の重根の時、 つまり  m+ki  = λ1  λ1 = λ2     のとき、

     y = x²(C(x)cos kx + D(x)sin kx) exp(mx);   

                          C(x),  D(x) の次数  =   Max {A(x) の次数,  B(x) の次数}  

               
として (3.1)  に代入して 恒等式の関係から C(x),  D(x) の係数を決定する。


f(x)  が (I) の形の関数と (II) の形の関数の和であれば、それぞれの特殊解を

未定係数法で求めそれらの和を取ればよい。 

例を与えよう。




ここで、述べた特殊解を求める未定係数法 は、高階の定係数方程式に対しても同様に

適用できる。 特性方程式の根の重複度に応じて x のべきをかけた形で求めると良い。 

最後に、3階の方程式の例をあげる。 



ここで、教科書にはないが1つの重要な補足を加える。変数係数のオイラー - コーシーの 微分方等式の解法についてである。 

3.5 オイラー - コーシーの 微分方等式 


求積法によって解くことのできる変数係数の2階線形方程式の例として 

オイラー - コーシー型 の方程式をあげることができる。

このタイフの方程式はラプラシアンを極座標分解したときに現れる

変数係数の2階方程式の1つである。 



レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler, 1707年4月15日 - 1783年9月18日)

18世紀の数学者であり、天文学者(天体物理学者)である。18世紀の数学の中心となって、続く19世紀の厳密化・抽象化時代の礎を築いたとされる。


オーギュスタン=ルイ・コーシー(Augustin Louis Cauchy, 1789年8月21日 - 1857年5月23日)

フランスの数学者。解析学の分野に対する多大な貢献から「フランスのガウス」と呼ばれることもある。天文学、光学、流体力学などへの貢献も多い。


オイラー - コーシー型の方程式は、一般のn階方程式に議論を拡張できるが、

ここでは簡単のため n=2 として説明しよう。  a,  b を定数として2階の変数係数方程式

(3.23)    x²y'' + axy' + by  = 0 

オイラー - コーシーの 微分方等式 という 。 以下変数 x > 0 とする。

この微分方程式の解は、べき関数を一般解としてもつことが知られている。 y = x     とおいて

(3.23)  に代入すると、

                   x²m(m-1)xm-2  + axmxm-1 + bx   =  xm  {m(m-1) + am + b} = 0  

このことより m は2次方程式

 (3.24)     m(m-1) + am + b = 0

の根となるように取ればよい。  (3.24)  を (3.23) の特性方程式 という。

 (3.24) は、2根 m₁, m₂ をもつからそれらに対応する解が 基本解 になる。 

 (3.24) の判別式 D = (a-1)² - 4b  とする。



定理 11 (i)  D > 0 のとき、  (3.24) の相違な2実根を α , β とおくと、 

微分方程式 (3.23) の一般解は、

  (3.25)                   y = C₁xα  + C₂xβ 

で与えられる。

  
 (ii)  D = 0 のとき、  (3.24) の重根を α とおくと、 

微分方程式 (3.23) の一般解は、

  (3.26)                  y =  (C₁+ C₂log x) xα 

で与えられる。

 (iii)  D < 0 のとき、  (3.24) の相違な2虚根を α ± βi  とおくと、 

微分方程式 (3.23) の一般解は、

 (3.27)                y = xα  [C₁cos (β log x) +  C₂sin (β log x ) ] 

で与えられる。


 (証明) (i)   y₁= xα  と  y₂= xβ  が解になることは、確かめた。

 y₁と y₂の一次独立性を示すために、ロンスキアンを計算しよう。 すぐに


W[xα , xβ ] = (β - α)xα+β-1   がわかるので、α ≠ β  よりロンスキアンは恒等的に 0 でない。

したがって xα  と  xβ  は一次独立になり、 (3.23) の一般解は (3.25) で与えられる。


(ii)   y₁=xα  が解になることは明らか。 xm を方程式に代入して計算すると

                           x²(x )'' + ax (xm )' + b x   =    {m(m-1) + am + b} xm   

が得られる。 したがってこの式を m で微分すると   xm  = exp(m log x)  より 

dx/dm =  log x exp(m log x) =  x log x に注意すれば                 

     x²(x log x)'' + ax (x log x)'  + b x log x = (m - α) {2 + (m - α)log x}xm  

となり、  m = α を代入すると、 (xα log x)'' + ax (xα  log x)'  + b xα  log x = 0


つまり、 xα  log x も (3.23) の解。 xα  と xα  log x の一次独立性の証明は 

定理2の証明と同様である。 

したがって、この場合の一般解は、(3.26) で与えられる。


 (iii)  複素根を持つ場合、

 y₁ =  xα+βi ,  y₂= xα-βi が2つの一次独立な解になる。  xβi  = exp(i β log x)  なので

 オイラーの公式    exp(iβ log x ) = cos (β log x) + i sin (β log x)    をつかうと、

y₁ =  xα+βi  = xα xβi   =  xα  [cos (β log x) + i sin (β log x ) ] ,

y₂ =    xα-βi   = xα x-βi   =  xα  [cos (β log x) - i sin (β log x ) ] , 

とかける。 したがって、 y₁と y₂の線形結合

(y₁+ y₂)/2 = xα  cos (β log x) ,      (y₁- y₂)/2 i =  xα  sin (β log x)     を考えると

結論にある2つの一次独立な解が得られる。 一次独立性の証明は定理2と同様にしてできる。

 例をあげよう。 


つぎに非斉次方程式を考える。

定数変化法により、定理7と同様にして次の定理をうる。 証明は演習問題とする。


定理 12  斉次方程式 (3.23)  の基本解系を y₁, y₂ とする。 

のとき非斉次方程式

(3.28)    x²y'' + axy' + by  = f(x) 

 
 の一般解は、 

(3.29)     y =  y₁( - y₂f(x) / x²W[y₁, y₂] dx + C₁) 

              + y₂( y₁f(x) /x² W[y₁, y₂] dx + C₂) 

 で与えられる。 

 最後に例を1つ与える。





一般のn階のオイラー - コーシーの 微分方等式 を考え、

それに対して 定理11の拡張を考えてみよ。




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