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2014年3月6日木曜日

考えない人

古本市場で買ってきた、文庫

宮沢章夫 著  考えない人  新潮文庫

を、 考えない人とは私のことだ と思いながら読んだ。 
勉強するのが嫌で、時間潰しでしかない。


著者は、著名な劇作家で、早稲田大学客員教授も務めていた。  
挿絵は、しりあがり寿 です。
脱力エッセイ集で、考えない人の様々な言動を面白おかしく綴ったものだ。 
何も考えたくなかったので、考えない人 を読んだ。

文中におかしな論理は、使っていないと思っていたが、そうでなく理解困難な文章がある。
引用してみよう。 コメント上、文章を番号づける。

心が熱くなる  というエッセイだ。

前略 
1) それはともかく、「心を熱くする書き出し」は、様々であり、人に固有のそれがあるとするなら、
次のような書き出しで心を熱くするものがいても、けっしておかしくないはずだ。

  ムーミントロールが、まだうんと小さかったころのことです。(トーベ・ヤンソン
   「ムーミンパパの思い出」 小野寺百合子訳)

2)まず、「ムーミントロール」で心がかっと燃えてくる。「まだうんと」で目頭が熱くなる。 「小さかったころのことです」で、いよいよ涙が溢れる。 そんな人がいたっていいじゃないか。 それはそれで素晴らしいことだ。

3)彼のなかでこの書き出しがどういった意味をもつのか私は知らない。 きっと彼に固有の
<意味> があるに違いない。

4)そして、誰かが間違ってそれを朗読すると、まわりは静かなのに、彼は一人、泣いている。

5)「どうしたんだよ、おまえ」と問えば、彼は泣きながら言うだろう。「だって、ムーミンだぜ」
    
6)いよいよ、彼のことがわからない。

後略

上の部分の論理が追いづらい。 何度読んでもわかりにくい。 
ひっかかるのは、私だけかもしれないが。  

1)では、”なんの変哲もない トーベ・ヤンソン著 「ムーミンパパの思い出」 の書き出しで、
心を熱くするものがいても、おかしくない” と言っている。 いない場合も想定している文章だ。

2)では、その熱くなり方、つまり3つの文節にわけて、それぞれによりどう熱くなるかを例示して、
そのような反応を示す人がいるかもしれないと言っている。 そんな人がいれば素晴らしいともいっている。 依然、いない場合も想定している。

3)で突然、心を熱くする人の存在を断定している。 そんな無茶な! いるのだったら、1)で 「心を熱くするものがいても、けっしておかしくないはずだ。」と書いてはいけない。 「心を熱くするものがいる。」と書かねばならない。 2)も同様。 ちなみに、トーベ・ヤンソンは女性なので、3)での彼は、トーベ・ヤンソンではありえない。 存在が不確かである以上、その架空のひとの持つ固有の<意味>など意味はない。 (真偽の不明な命題からは、なにも帰結できない!) 

4)彼が存在したと仮定しよう。 「誰かが間違ってそれを朗読する」 ってどこをまちがえたのか?
間違えようがないと思うが、説明がない。泣いているところをみると、「小さかったころのことです」の部分か? 例えば、「大きかったころのことです」 とか? まあ、それはないだろう。
もしくは、他の文章を朗読するつもりが、たまたま 「ムーミンパパの思い出」 の書き出しを読んでしまったのか? このシチュエーションも不明(ムーミンの舞台稽古か?)で説明なし。 
舞台稽古なら、「まわりは静か」 なのは変。 ともあれ、彼は存在して泣いたわけだ。

5)存在している彼に著者が、「どうしたんだよ、おまえ」と問うたのですね。 そしたら、「だって、ムーミンだぜ」と彼は泣きながら答えたわけですね。 もしそうなら、「彼は泣きながら言うだろう」は、仮定法なのでダメ。 「彼は泣きながら言った」と直すべきです。 
もし、この文章全体が仮定法としましょう。つまり、彼は存在するんだけれど、「どうしたんだよ、おまえ」と問うてないとしましょう。そうすると 「だって、ムーミンだぜ」の答は推測にしかすぎません。 したがって答は返ってこなかったので、6)の文章は、意味を持ちません。

6)この文章が意味をもつためには、彼は存在しなければなりません。

もし、彼が存在していないとすると 3)以下は意味を持ちません。

結論として、文章からは彼は存在せざるを得ません。 
しかし、それをハッキリ断定しないのは現実には彼が存在しないからでしょう。
存在しないなら、6)の彼のことがわからないのは当然です。 

後略の部分にある文章もよくわからない。 

書き出しこそが、人の心を熱くする。
その固有性にこそ、書き出しの謎がある。書き手の意志を超え、それが存在するのもまた、ひどく謎である。

謎の文章である。 わかったようでわからない文章だ。 

それで私は、考えきれずに考えない人になってしまったのだ。  

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