風をつかまえて-風車を作る話
高嶋哲夫は、私の好きな作家の1人です。 先日、「風をつかまえて」 を読了しました。
若者が風車を作る話です。 概説には、
北海道の破たん寸前の小さな町を舞台に繰り広げられる、ある鉄工所の家族の物語。資金難、失敗、事故など、想像を絶するさまざまな困難を乗り越えながら、風車を造ることによって、町の再生と、自らの家族の再生にすべてをかける。希望、夢、恋そして欲が入り乱れる青春小説。
とあります。
あらすじを書きます。
北海道の内知町(架空だが知内町はある)の小学校4年生の女子児童が、文科省主催の
「ふるさとを描こう」という絵画コンクールで、文部大臣賞を受賞した。
その絵のなかに丘の上で回っている白い風車が描かれている。
それが全国紙に紹介されたのだが、実は想像上の風車であった。
観光業者から町の観光課に問い合わせがあったのだが、実際にはない。
それを知り、町おこしの目玉として町長は風車建設を町議会に提案する。
町の観光ホテルから100万円、観光組合が200万円、町が200万円を負担して風車を建設
することになる。 この安上がりの風車の建設を請け負ったのが、内知町の東間鉄工所
社長の東間真二郎である。 鉄工所はバブル経済の崩壊後、仕事が減り、結果的に従業員も
減り、さらには苦労を共にした妻を亡くしている。それ以降、仕事の張りもなくし、酒におぼれると
いう状態であった。長女の知恵が経理面を見ながら、細々と仕事を続けている状態だった。
次男の主人公である東間優輝(ゆうき)は、そんな父親に反発して大げんかして家を
飛び出してしまう。
しかし、工業高校率の彼は、地道に造船所などで働き、溶接工としての技術は持っている。
そこで、風車建設の話が持ち上がり真二郎はそれに職人としての意欲を見せるのである。
一方優輝は、幼馴染の北大理学部数学科D1の早河由紀子の勧めで実家の鉄工所に戻る。
そして、風車建設に協力する。 設計は優輝の工業高校での先生であった北大卒の
物理教師藤江が引き受ける。高校時代暴走族の仲間であった友人もその建設に協力する。
かくして12mの風車風神1号は、自己調達の600万で完成するのだが、ここで悲劇が起こる。
観光の目玉として立地条件などは見栄えだけで選ばれ、強度計算が不十分だったのだ。
強風でブレード(ハネです)が1枚吹っ飛び、異常振動によりタワー(支柱)が倒れてしまったのだ。
その際父親を助けようとして知恵がタワーの下敷きになってしまう。結果、右足を切断。
しかし、知恵は健気にも元気に明るく振舞い、風車再建のため障害保険のお金を町に供託
するのである。 知恵は嫁き遅れであるが美人である。その上こんなに賢明で意志が強く、
前向きなのである。 このような知恵の願いに答えられないのは男ではない。
優輝は、藤江の紹介で北大の先生や幼馴染の由紀子、その友人の花山の協力を得て
経済的に成り立つ風車の設計を始めるのだ。 製作費1億8300万円、出力3000キロワット
の大風車だ。 優輝は、懸命に流体力学や構造力学を勉強する。
その設計の優秀さを北大の教授に褒められたりする。 偉い!
しかし、これだけの巨額の資金調達は容易でない。
ここで、登場するのが兄の東間慎一である。彼は学術優等で東京に出て、商社マンになっている。
優輝は兄にコンプレックスを持っていて、同時に要領の良い、いけすかん奴だと思っている。
彼がその婚約者を連れてきて、実家の鉄工所の窮状を知る。
慎一は、それに商社マンとしての能力を用いて新風車建造に協力するのだ。
婚約者は広告企画者で、色々と資金を集めるためのアイデアを出して、
エコエネルギーとして風車プロモーションを展開する。
企業のイメージアップを逆手に取り、金をせしめるのである。
ここらは、現実的な広告業界の金集めの話になり詳細は略。
優輝は勉強して、宣伝のためパワーポイントを使いこなせるようになっている。
偉い! 私にはできぬ。
優輝は風車建設案により、若手の企業家のように思われてしまい、実際に技術者かつ企業家に
なってしまうのである。 金さえ集まると、どうやら作成は技術的にはそれほど困難はないらしい。
ブレードの設計制作は、優輝によるが、メインのタワーは、外注である。
かくして見事に新風車レラカムイ1号(アイヌ語で風の神)が完成する。
このネーミングは、藤江による。彼は、知恵に求婚し叶えられる。 由紀子も花山でなく、
優輝に魅かれているらしい。
都合よく万事が運びすぎではあるが、 メデタシ、メデタシで終わる。
風車は風さえふけば回るのだろうという、長髪の学生の揶揄した質問に対して
優輝は答える。
「風が吹くだけじゃ回らない。風をつかまえるんだ。
ブレードが風をつかまえて、やっと回りはじめる」
これがタイトルの由縁です。 いい言葉です。 私はこのセリフを書きたかったのです。
読後感は、大変よろしい。 お勧めです。
著者は、理系人間ということもあって、風車制作の過程や風車の物理的、技術的な課題を
丁寧に説明しています。
また、風力発電を総合的システムとして捕えないと、経済的には成り立っていかない旨の
説明もなされている。実際の風力発電のメリット・デメリット、その将来の可能性が具体的に
提示されているのだ。
著者の 高嶋哲夫 です。
高嶋哲夫オフィシャルページ のトップページ(現在)が風車写真です。
彼の言葉:
風車は単に、「風エネルギーで羽根を回して電気エネルギーに換える装置」という以上に、
堂々とそびえ立つ姿にはロマンがあります。
大型風車は100メートル前後。世界最大の風車は、183メートルでドイツにあります。
でも、すぐにこの記録は破られるでしょう。
〈北海道の破綻寸前の小さな町。起死回生の町おこしとして、町の小さな鉄工所が「風車」を造ることになった〉
〈地域と家族の再生をかけた父と子の姿を描く、感動の書き下ろし青春小説〉
ぜひ、お読みください。
以外と簡単な説明ですね。
プロフィール
1949年7月7日、岡山県玉野市生まれ
慶應義塾大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
帰国後、学習塾を経営しつつ、作家業をこなす。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。
受賞作
1979年 日本原子力学会技術賞受賞 (エンジニアとしても優れていた)
1990年 『帰国』 第24回北日本文学賞受賞
1994年 『メルトダウン』 第1回小説現代推理新人賞受賞
1999年 『イントゥルーダー』 第16回サントリーミステリー大賞受賞(大賞・読者賞をダブル受賞)
2006年 井植文化賞受賞
2007年 『ミッドナイトイーグル』 映画化
2010年 『風をつかまえて』 第56回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選定
著書:
『アフガンの風』
『アメリカの学校生活』
『命の遺伝子』
『イントゥルーダー 』
『M8』
『カリフォルニアのあかねちゃん』
『虚構金融』
『公立学校がなくなる』
『塾を学校に』
『スピカ-原発占拠-』
『ダーティー・ユー』
『TSUNAMI(津波)』
『都庁爆破!』
『トルーマン・レター』
『ペトロバクテリアを追え!』
『ミッドナイトイーグル』
『冥府の虜』
『メルトダウン』
ほか
私は、紫 の本を読みました。 6冊しか読んでなかった。 余り良い読者とは言えん。
面白い対話を発見: 高嶋哲夫 の人となりがわかる。 小幡万里子のtwilog
美人を前にして、やにさがってますな。
小幡:高嶋さんは、日本原子力研究所にお勤めされていらしたのですよね。
子どもの頃から、ずっと理系タイプだったのですか?
高嶋:そうですね。本は、ほとんど読まない子どもでしたね。(笑:同じだ)
ただ、小学校四年生の時の先生が面白い方で、授業中なのに、図書室に連れて行ってくれてね。本棚に並んだ本を順番にはじめから読ませてくれたんですね。
本や文学に触れたっていうのは、その時くらいでした。
中学校は遊んでばかりだったし、岡山の田舎のごくごく普通の高校に通う高校生だったので、
受験のためにサマリー(要約本)くらいしか読んでいなかったなあ。
小幡:そんな高嶋さんが、どうして作家になられたのでしょう。
高嶋:日本原子力研究所で核融合の研究を3年していました。
それまで、努力すれば、なんでもできる!と思っていたのだけれど、
アメリカ留学中に色んなすごい人に出会って、自分の頭は彼らの頭脳には、
絶対にかなわないって気づいたんです。(笑:同じだ)
努力で超えられない壁があるんだって。自分はこんなに頭が悪かったのかって。(笑:同じだ)
それで、これから食べていくために、どうしようかなあって思った時に、
たまたま、自分の周囲に作家志望の友人が多かったんですね。
それで、彼らが書くものを読んでいると、こっちの方が自分に向いているんじゃないか、
それに楽じゃないか、って思い始めたんですよね。(笑:違う)
小幡:そうだったんですか。それで、すぐに書き始めたんですか?
高嶋:帰国してから、まず学習塾をやり始めました。
今も、教育には生涯関わっていきたいと思っているんです。
実は最初に本になったのは『アメリカの学校生活』『カリフォルニアのあかねちゃん』という、
アメリカの学校教育のことを書いたものなんです。
小幡:すごい!意外です。高嶋さんが塾で教えていらしたなんて。
やっぱり教えるのは理系だったのですか?
高嶋:塾は、一人で全部を教えていました。小学生から高校生まで全教科をオールマイティに。
学年を超えて80人くらいを教えていた時期もありました。けっこう楽しかったですよ。
小幡:全部って大変じゃなかったですか?
高嶋:僕は教えることが得意なんですよ。(笑:同じだ)
アメリカにいる時は、あさひ学園という日本人学校で教えていました。
小幡:今の日本の学校教育については、高嶋さんの思うところってありますか?
高嶋:塾をやっていた時に痛感したのは、子どもたちには本音で話せる場や人が
必要だってことです。
子どもは塾にいる時は、公教育の場とは違う面を見せるんですね。
現在、講演会で呼ばれる分野は「防災」「原子力」「教育」「作家」という内容に
大きく分けられるのですが、高校生などに講演する時には、「無理をするな」って言います。
「人間、どうしても出来ないことがある。僕がサッカー選手になるのは、どんなに頑張ったって
無理だ。無駄な努力で時間を使わないで、自分に一番向いていること、できれば
楽しみながらやれることをやった方がいい。それを見つける手助けをするのが教育だ」
って話します。
そして、自分の中の埋もれている才能をみつけるためには、自分が死ぬほど何かをやってみて
見つけるもんだ、って言います。
はっきり言ってしまうと、子どもと会って、頭がいいか悪いかなんて、2~3時間話せば
分かるんですよ。(笑:同じだ)
今後大切なのは、大阪市長の橋下さんのようにシステム中心にいじるだけでなく、
教育の中身を変えていくことだと思います。
子供には勉強がすごく好きだという子も、死ぬほど嫌いだという子もいます。
日本ではほぼ100%の子どもが高校に行きます。
でも、本当の高校の学力をつけて卒業する子どもがどれだけいるでしょうか。
義務教育をもっと充実させ、その先は子どもたちがやりたいことをやれる学校を
増やしていけばいい。
それには、大学にいくことも、介護、ものづくり、農業、漁業など、どれも等しく重要だと
思える社会をつくることです。
そして、どの職業についても十分生活出来る収入が得られる社会システムを作ることです。
頭がいい、運動神経がいい、優しい、気が効く、手先が器用、力が強い、
すべて同様に素晴らしい才能です。
全く同感です。 私も落ちこぼれ大学生のための塾をやろうかしら。 無理っぽいね。
もう一冊先日読んだ本を紹介する。 こちらも非常に面白かった。
『命の遺伝子』(講談社)
永遠の若さが手に入るとき、歴史の闇から陰謀が浮上する。
ネオナチの集会で爆破事件が発生。
遺留品のなかにナチの大物戦犯と一致する手首があった。
しかしそれは一見、四十代の肌に見えた。
日系の天才遺伝子科学者トオル・アキツはベルリンで講演直後に拉致され、
百歳を超えるはずの手首の謎の解明のため、アマゾンへ。
壮大な科学冒険小説。細胞の老化は防げるのか?
世界各地に驚異的に長命の人々が点在するという。生命をつかさどるものは何か?
テロメア、テロメラーゼ、ES細胞、クローン…古今東西人々が求めつづけた不老不死とは
―天才日系科学者を主人公にドイツ、アメリカ、アマゾン、ヴァチカンと壮大なスケールで
描くダイナミックなノンストップ冒険小説。
これについても、よた話を書きたかったが時間切れである。 またの機会にする。
さて、風車に触発され、それで現在の風車設置状況を調べてみた。
風車日本マップ
現在の風車 747台 687,816kW
現在の風車 747台 687,816kW
登録台数 523台 411,870.5kW
北海道 | 設置台数 |
139
| 台 | 発電設備容量 |
120,951.5
| kW |
東北 | 設置台数 | 180 | 台 | 発電設備容量 | 174,384.5 | kW |
北陸 | 設置台数 | 21 | 台 | 発電設備容量 | 9361.5 | kW |
関東 | 設置台数 | 22 | 台 | 発電設備容量 | 11,686.5 | kW |
中部 | 設置台数 | 11 | 台 | 発電設備容量 | 1,739.5 | kW |
関西 | 設置台数 | 31 | 台 | 発電設備容量 | 21,453.0 | kW |
山陰 | 設置台数 | 6 | 台 | 発電設備容量 | 2933.0 | kW |
中国 | 設置台数 | 4 | 台 | 発電設備容量 | 441.0 | kW |
四国 | 設置台数 | 9 | 台 | 発電設備容量 | 3,555.0 | kW |
九州 | 設置台数 | 69 | 台 | 発電設備容量 | 52,820.0 | kW |
沖縄 | 設置台数 | 31 | 台 | 発電設備容量 | 12,545.0 | kW |
多いというべきか、少ないというべきか、微妙ですね。
風力発電 については、やはり Wikipedia が参考になる。
いくつか風車を見ていこう。 風車のある風景。 写真の出どころは省略。
沖縄県 具志川風力発電所
北海道 小平オンネ風力発電所 (現在は、解体・廃止されている。)
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