2.5 その他の微分方程式
この節では、求積法により解くことのできる有名な(発見者名にちなむ)微分方程式をあげる。
1.ベルヌーイ型微分方程式
(2.17) y' + a(x)y + b(x)yⁿ = 0
を考える。 このような y についての n次式を含む非線形微分方程式を
ベルヌーイ型微分方程式 という。
ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli, 1700年2月8日 - 1782年3月17日)
スイスの数学者・物理学者。
n=0 または n=1 のとき、(2.17) は1階線形方程式になる。
(2.17) は線形でないが、置き換えによって線形に直せる。
u = y1-n とおくと、 u' = (1-n)y-n となる。 ここで uyⁿ = y に注意する。
したがって、(2.17) は、
u'yⁿ /(1-n) + a(x)uyⁿ + b(x)yⁿ = 0
すなわち
(2.18) u' + (1-n) a(x)u = - (1-n) b(x)
となる。 これは、1階線形微分方程式なので 2.3節の方法により解ける。
一つ例を与える。
最後に 自然数 n は、任意の正数でも差し支えないことを注意しておく。
2. リッカチ型方程式
y について2次の非線形方程式
(2.19) y' = a(x) + b(x)y + c(x)y²
を考える。 この形の方程式を リッカチ型方程式 という。
ヤコポ・フランチェスコ・リッカチ(Jacopo Francesco Riccati、1676年5月28日 - 1754年4月15日)
イタリアの数学者。
一般には、この方程式は求積法により解けない。
しかし、(2.19) の一つの解が求まれば 求積法により解くことができる。
y = y₀(x) を (2.19) の一つの解とする。 u = y - y₀ とおく。
y' = u' + y₀' なので 代入して
u' + y₀' = a(x) + b(x) u + b(x)y₀ + c(x)y₀² + 2c(x)u y₀ + c(x)u²
整理すると、
u' = (b(x) + 2c(x) y₀)u + c(x)u² + (y₀' + b(x)y₀ + c(x)y₀²)
この式の最後の項は 0 なので
(2.20) u' = (b(x) + 2c(x) y₀)u + c(x)u²
となり、 これは n=2 の場合の ベルヌーイ型微分方程式となる。
さらに v=1/u とおくと u'= -v'/v² なので (2.20) に代入すると
-v'/v² = (b(x) + 2c(x) y₀)[1/v] + c(x)[1/v²]
となり -v²倍して方程式
v' = -(b(x) + 2c(x) y₀) v - c(x)
が得られる。 これは、v についての1階線形方程式なので
これを解いて (2.19) の解が得られる。
3. クレロー型方程式
(2.21) y = xy' + f(y')
の形の方程式を クレロー型方程式 という。 ただし f は C¹級とする。
アレクシス・クロード・クレロー(Alexis Claude Clairaut、1713年5月13日 - 1765年5月17日)
フランスの数学者、天文学者、地球物理学者。
(2.21) を x で微分して y' = xy'' + y' + f '(y')y'' つまり
y''(x+ f '(y')) = 0
これから
(i) y''=0 の場合
y'' = 0 ⇒ y' = C ⇒ y = Cx + D
ところで、 (2.21) より D = f(C) となるから
y = Cx + f(C) (C: 任意定数) が解。
(ii) x+ f '(y') =0 の場合
このとき y' = p をパラメータとすると (2.21) と連立して
(2.22) x = - f '(p), y = -p f '(p) + f(p)
がえられる。 この p をパラメータとする 曲線 (x(p), y(p)) は (2.21) の解であるが
(i) の解の任意定数 C をどのように選んでもこの解は得られない。 この意味で この曲線を
(2.21) の 特異解 という。
実は、(i) の直線群の包絡線が (2.22) で与えられる。
2.6 微分不等式とグロンウォールの不等式
微分不等式 とは、微分方程式の等号を不等号に変えたものと言える。
一方、グロンウォールの不等式とは、積分を含む不等式である。共に理論上大切な不等式である。
以下、積分記号を美しく表示するのは、難しいので 区間 [a, x] 上の積分を ∫[a,x] で表わす。
定理 2 φ(x), Ψ(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数とする。
[a, b] 上の関数 y = y(x) が不等式
(2.23) y' + φ(x)y ≦ Ψ(x)
をみたすならば x∈ [a, b] に対して不等式
(2.24)
y(x) ≦ exp(- ∫[a,x] φ(t)dt ){y(a) + ∫[a,x] Ψ(t)exp(∫[a,t] φ(s)ds)dt}
がなりたつ。
とくに φ(x) ≡ A > 0, Ψ(x) ≡ B ならば 結論 (2.24) は、
(2.25) y(x) ≦ exp(-A(x-a)) y(a) + [B/A] (1 - exp(-A(x-a))
となる。
(証明) u = exp(∫[a,x] φ(t)dt) >0 とおく。 (2.23) の両辺に u > 0 を掛けて
y'u + φ(x)uy ≦ uΨ(x). ところで、 積の微分公式より
(yu)' = y'u + u'y = y'u + φ(x)uy なので、 この不等式より
[d/dx](y(x)u(x)) ≦ Ψ(x)u(x)
がしたがう。 この不等式を a から x まで積分すると
y(x)u(x) ≦ y(a)u(a) + ∫[a,x] Ψ(t)u(t)dt
y(x) ≦ exp(- ∫[a,x] φ(t)dt ){y(a) + ∫[a,x] Ψ(t)exp( ∫[a,t] φ(s)ds)dt}
がいえる。 これは、 (2.24) に他ならない。
さらに φ(x) ≡ A > 0, Ψ(x) ≡ B のときは、(2.24) に代入すると
y(x) ≦ exp(-A(x-a)) {y(a) + B∫[a,x] exp(A(t-a))dt }
となり、積分を実行すると (2.25) が得られる。 (証明了)
微分不等式 に対応して、積分不等式 というのがある。
これは、微分不等式を積分した形の不等式である。 その例である応用上も有益な
グロンウォールの不等式 をのべよう。
定理 3 φ(x), y(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数で
φ(x) ≧ 0 とする。 c は実定数とし、
y = y(x) が 積分不等式
(2.26) y(x) ≦ c + ∫[a,x] φ(t)y(t) dt
をみたすならば x∈ [a, b] に対して不等式
(2.27) y(x) ≦ c exp(∫[a,x] φ(t)dt )
がなりたつ。
(証明) F(x) = ∫[a,x] φ(t)y(t) dt とおく。 φ(x) ≧ 0 なので
(2.26) の両辺に φ(x) を掛けると
φ(x) y(x) ≦ c φ(x) + φ(x) F(x) .
一方 F'(x) = φ(x) y(x) なので この不等式から、 F(x) に関する微分不等式
F'(x) - φ(x)F(x) ≦ c φ(x)
が得られる。 よって、定理 2 より F(a) = 0 に注意して
F(x) ≦ c exp(∫[a,x] φ(t)dt )∫[a,x] φ(t)exp(- ∫[a,t] φ(s)ds)dt
ここで、(2.26) を使うと
y(x) ≦ c + F(x)
≦ c + c exp(∫[a,x] φ(t)dt ) ∫[a,x] φ(t)exp(- ∫[a,t] φ(s)ds)dt
= c { 1 + exp(∫[a,x] φ(t)dt )∫[a,x] [-(d/dt) exp(- ∫[a,t] φ(s)ds)] dt }
= c { 1 + exp(∫[a,x] φ(t)dt ) [- exp(- ∫[a,x] φ(s)ds) + 1]}
= c exp(∫[a,x] φ(t)dt )
となり結論 (2.27) が従う。 (証明了)
定理3は、つぎのように一般化される。 証明を試みよ。(演習問題)
定理 3’ φ(x), y(x), β(x) は、区間 [a, b] 上で 連続な実数値関数で
φ(x) ≧ 0 とする。 y = y(x) が 積分不等式
y(x) ≦ β(x) + ∫[a,x] φ(t)y(t) dt
をみたすならば x∈ [a, b] に対して不等式
y(x) ≦ β(x) + ∫[a,x] β(t)φ(t) exp(∫[t,x] φ(s)ds) dt
がなりたつ。
これらは解の比較定理と呼ばれ、常微分方程式や確率微分方程式の理論上では強力な武器になる。
0 件のコメント:
コメントを投稿