2013年の8月9日 神戸大工学部の教室棟で行った 韓国の中学生のための講演ファイルを
編集し直したものをアップします。
この講演は、KUT(韓国科学技術大学校)のHa教授とLee教授の依頼によるものです。
2013 GLOBAL CREATIVE CAMP
という名称で、韓国の優秀な中学生を対象とした教育Tour でした。
その目的は、システム情報学研究科の小島史夫教授の講演を聞き、
ロボット工学の大家である彼の研究室を見学することでした。
私はその仲介を務め、まえふりとして数学の重要性とか面白さを
1時間ほど講演することになりました。
講演会の開催にあたっては、小島教授の多大なるお世話になりました。
例によって、私のうかつさにより駐車場の確保とか問題が多々起こりましたが
教授の采配と目配りのお蔭で無事に講演会をすませました。
ここに書くのも変だけど、小島先生、有難うございました。
さまざまなホームページからの記事や写真の切り貼りを行って、
日本の中学生向きに編集したものですが、
数学に興味のある中学生や高校生の方に面白く思ってくださる方がいれば幸いです。
講演はパワーポイントで行い英語でお話をしましたが、
そのファイルを基にして日本語に直し全体を充実させました。
数学!
神戸大学 名誉教授
中桐 信一
1.数学ってなんだろう?
数学 とは、
量 (数)、 構造、 空間、 変換
に関する 抽象的研究 です。
といっても何だかよくわからないので、具体的にその内容を考えましょう。
初等数学 (中学高校までに教わる数学)
初等代数、 初等幾何、 初等解析高等数学 (大学以降に学ぶ数学)
代数、幾何、解析、集合論と論理
と分けることができます。
な~んだ、高等数学って高校までの数学から”初等”を取っただけじゃないか?
と思われるでしょうが、その通りです。
集合論と論理 という理屈が加わって、内容が高度化するのです。
この講演では、これらの数学の分野について
(A) その 美しさ
(B) その 応用
(C) その 発展
についてお話しをしましょう。
2. 初等数学
代数と幾何からのトッピクス
A) ピタゴラスの定理
三平方の定理 とも呼ばれてますね。
直角三角形の3辺の長さに関する関係式です。
皆さんもよく知っている関係式です。
色んな証明が知られていますが、 直観的なのは面積の合同を示す証明法です。
青と緑の正方形の面積の和が、下の斜辺に対応する正方形の面積と等しいわけです。
他にも色んな証明が知られています。 動画で見てみよう。
証明の動画
B) 2次関数
式であらわすと、
となります。 図を描いてみましょう。
いわゆる放物線というやつです。 逆さにすると、石を投げたときの軌跡(曲線)になります。
皆さんは、2次方程式の根の公式はよく覚えていると思います。 2次方程式
の根は、
で与えられるというやつです。
この公式を証明しましょう。 左辺を平方完成しましょう。
定数項を右辺にもっていって、根号(ルート)をとると、
となり、公式が従うというわけです。
C) 円錐曲線
xy-平面 R2 上で定義された曲線で、 次のように陰関数表現されます。
x と y の2次式なので、2次曲線ともよばれます。
どのようにして、得られるかというと、
円錐を平面でぶった切ったときの境界曲線として、現れます。
もう少し、正確に描くとこうなります。
タイプ分けすると次の種類に分けられます。 定数 p と q は正の数 とします。
二直線は、一次関数が2本ということだし(退化という)、
円は、楕円の特別な場合なので、本質的には、
楕円、 放物線、 双曲線
の3種類です。
D) 2次曲面
1つ次元をあげてみましょう。 あらたに、z という変数を加えるわけです。
このとき多様な曲面が現れます。 具体的に見ていきましょう。
・楕円面
・楕円放物面
・双曲放物面
・一葉双曲面
・二葉双曲面
・錐面
・楕円柱面
・双曲線柱面
・放物線柱面
それぞれ、楕円面ならば
aX2 + bY2 + cZ2 = 1 |
という曲面方程式の標準形が与えられます。 その他の場合は略します。
退化という現象がからむので、曲面が複雑になるわけです。
E) ピタゴラス数
ピタゴラス数というのは、
a2 = b2 + c2
をみたす正の整数の組 a, b, c のことを言います。
ピタゴラス数は、沢山存在します。
例えば、 (5,4,3), (13,12,5), (17,15,8), .......
入試ででるのは、最初の2つが主で、ごくたまに3番目がでます。
ここで、問題: ピタゴラス数って、いくつあるの? 全部わかるの?
各 ピタゴラス数を整数倍しても、ピタゴラス数ですから、これは余り面白くない。
それで、3数の最大公約数が1となるものを、既約ピタゴラス数 とよぼう。
既約ピタゴラス数 が全部わかれば、問題は解決ですね。
それで、 問題の答は、 YES です。 m^2 は、 m の2乗 のこととする。
答: m と n を互いに素な、正の奇数で、 m>n とする。 このとき、
a=mn, b=(m^2-n^2)/2, c=(m^2+n^2)/2
は、既約ピタゴラス数 である。 逆に、既約ピタゴラス数 は、この形に表される。
初等的な推論と計算で、答を確認できるのですが、面倒なので証明は略します。
ですから、素数表(2を除く)から、2数を取ってきて上の公式から、
a, b, c を計算すればよいわけです。 こんなの計算機にやらせればすぐですね。
既約ピタゴラス数 を列挙すると(a, b, c は、大きい数から並べます);
5 4 3
13 12 5
17 15 8
25 24 7
29 21 20
37 35 12
41 40 9
53 45 28
61 60 11
65 56 33
65 63 16
・・・・・・・・
となります。
兵庫県立明石北高等学校 天文研究部の
ホームページ
には、1万以下の既約ピタゴラス数 のリストがあります。
うんざりするくらいあります。
さて、 2乗を n乗に直して、
問題: n は 3 以上として、 xn + yn = zn をみたす自然数の組 x, y, z はあるの?
NO という答が
Fermat's Last Theorem
です。 フェルマーの最終定理 といいます。
フェルマーが驚くべき証明を得たと書き残したと伝えられ、
長い間 証明 も 反例 もなされなかった。
幾多の数学者が、この問題に挑戦しましたが、全て失敗しました。
現在では、フェルマーが見つけたという証明はおそらく間違いだろうとされています。
しかし、360年後にアンドリュー・ワイルズによって完全に証明され、
ワイルズの定理あるいはフェルマー・ワイルズの定理とも呼ばれるようになった。
この人です。
その証明は、初等的ではありません。
現代数学における深い理論を用いるものです。
半安定な楕円曲線に対するModularity Theorem を使うものです。
日本語版 Wikipedia にも、しっかりとした説明があります。
これは、信頼がおけます。 漫画版のリストもあります(知らなかった)。
YouTube にも Fermat's Last Theorem (Complete) があります。
50分近くもあり、英語版ですが ワイルズのインタヴューもあり、
興味ある方にはお勧めです。 志村五郎先生もでてきます。
フェルマーの最終定理
To Be Continued (つづく)
予定では、IV 位まで続きます。 とびとびに掲載します。
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