今年度は、4月8日開始。 学生諸君、爺さん教官で申し訳ないが半年の間どうかよろしく。
微積分の初歩を知っていれば高校生でも解かるように講義するつもりである。
この記事を見た高校生の方も、どうぞ読んでみてください。
昨年と同じく 教科書はこれです。
内容は、つぎのようになっている。
教科書は、常微分方程式と偏微分方程式の基礎部分を解説している。
その内、私の担当部分は前半の常微分方程式の部分で、1章から6章3節までです。
昨年の実績からいうと、14回の講義で終了します。しかし、試験の範囲は、1章から5章までとする。
私の講義は、昨年度と異なり本年度は1章から始めます。 教科書に沿ってほぼ忠実に講義する予定。 しかし、例題はできるだけ教科書と違うのを選ぶつもりです。
講義原稿を、昨年度の原稿の改訂版として順次アップする。
それでは、早速講義を始める。
常微分方程式
1章 序論
1.1 微分方程式
工学系の数学において、微分方程式は基本的に重要である。
後に示すが、多くの物理法則は数学的には微分方程式の形に表現されるからである。
それ故、物理法則を理解しようとすれば、その微分方程式を解く必要が生じる。
また物理的もしくは数理科学における現象を微分方程式としてモデル化することも大切である。
そのためにも微分方程式の持つ意味と、その解法を学ぶことは重要である。
この講義では、求積法で解ける微分方程式の解法や線形方程式の解法や
その基礎的な性質を学ぶ。 物理現象との関連も、講義中に幾つか注意をしたい。
微分方程式は、なにか?
これを一応定義すると、こうなる。 変数 x を独立変数とする関数 y = f(x) に対して、
y およびその導関数 y' = y(1) = dy/dx, y'' = y(2) = d2y/dx2 , ・・・ , y(n) = dny/dxn を含む関係式
(1.1) F(x, y, y(1) , ・・・, y(n) ) = 0
を微分方程式という。 この方程式をみたす関数 y = f(x) を微分方程式 (1.1) の解 という。
具体例を与えてみよう。
微分方程式に含まれる導関数のうちで、その階数の最も高いものが n であるとき、
この微分方程式を n 階の微分方程式 という。
一般に n 個の任意定数 C1, ・・・ , Cn を含んだ関数 y = f(x, C1, ・・・ , Cn ) を n 階まで微分しよう。
(1.2) y = f(x, C1, ・・・ , Cn ),
y(1) = f(1) (x, C1, ・・・ , Cn ),
・・・
y(n) = f(n) (x, C1, ・・・ , Cn )
これら n 個の式から(うまくいけば)定数 C1, ・・・ , Cn を消去して、 (1.1)の関係式が得られる。
また、逆に n 階の微分方程式
(1.1) F(x, y, y(1) , ・・・, y(n) ) = 0
に対し、n 個のの任意定数 C1, ・・・ , Cn を含む 解 y = f(x, C1, ・・・ , Cn ) を
(1.1)の一般解という。
さらにこの任意定数に具体的な値を代入して得られる解を特殊解という。
一般解として表現できない解が存在するとき、このような解を特異解という。
微分方程式が、未知変数 およびその導関数 について一次式であるとき、
微分方程式は線形であるという。 そうでないときは、非線形と言う。
例1では、(4)を除き (1)、(2)、(3)全て線形である。
(1)、 (2) は1階線形、(3)は2階線形である。
一般に n 階線形方程式は、つぎの形に書ける。
(1.3) an(x)y(n) + an-1(x)y(n-1) + ・・・ + a1(x)y(1) + a0(x)y = f(x)
いままでは、未知変数 y が1つの場合であったが、未知変数を2つ以上含む
微分方程式も考えることができる。
例を示そう。
例1や例2においては、独立変数が x のみの関数に対する微分方程式であった。
つぎの例3では、独立変数が x と y の2つである場合、
従って偏微分を含む微分方程式である。
このような2つ以上の独立変数をもつ微分方程式を偏微分方程式という。
区別をするために、(1.1)の形の1独立変数の微分方程式を常微分方程式とよぶ。
例3の方程式は、全て線形の偏微分方程式であるが、 u = u(x,y) についての
モンジュ・アンペールの方程式
は、非線形偏微分方程式である。
常微分方程式論においては、
(1.3) y' = f(x,y), y(x0) = y0
のような問題を、初期値問題またはコーシー問題という。
これは、 "初期条件 y(x0) = y0 をみたす微分方程式 y' = f(x,y) の解を求めよ"
という問題である。
また2階の微分方程式に対して、つぎの形の境界値問題も応用上しばしば現れる。
(1.4) y'' = f(x,y, y'), y(a) = 0, y(b) = 0 (a < b)
これは、 " x = a のとき y(a) = 0, x = b のとき y(b) = 0 をみたす
微分方程式 y'' = f(x,y, y') の解を求めよ"
という問題である。端点 a, b で値を指定するので、境界値問題とよばれる。
1.2 1階微分方程式の幾何学的な意味
正規形の、一階微分方程式
(2.1) y' = f(x,y)
を (x,y) 平面上で考えよう。 y' は、(x,y) 平面での y = y(x) の勾配、
すなわち x における接線の傾きであるから、
(2.1)はその勾配が場所 (x,y) の関数 f(x,y) となることを言っている。
微分方程式 y' =y について、各格子点上でそのような勾配を赤の矢印で示してみる。
このような場のことを方向場という。
格子点を無限に沢山選んでいくと、微分方程式の解の概形が浮かびあがる。
この例では、 y = C exp(x) なることが見て取れる。
一般に f(x,y) は、(x,y) 平面上の領域 D で与えられているとする。
"このとき D内の点 P0(x0,y0) を通る解曲線 y = y(x) があったとして、
この点のおける接線の傾き y '(x0) が f(x0,y0) に等しい。"
このことが、"全てのD内の点に対して成り立つ" というのが、 (2.1)の意味である。
つぎにコーシーの折れ線について説明をしよう。
D内の点 P0(x0,y0) を1つ固定する。 h を充分小さな正数とする。
このとき、P1(x1,y1) を
x1 = x0 + h, y1 = y0 + hf(x0,y0)
つぎに点 P2(x2,y2) を
x2 = x1 + h = x0 + 2h, y2 = y1 + hf(x1,y1)
により定める。 以下帰納的に Pk(xk,yk) を
xk = xk-1 + h = x0 + kh, yk = yk-1 + hf(xk-1,yk-1)
により定義する。
点 P0, P1, ・・・・, Pn を結んだ折れ線のことを、コーシーの折れ線 という。
作り方から、このコーシーの折れ線 は、(2.1)の初期条件 y(x0) = y0
の下での近次解と考えられる。
実際、f(x,y) がD で滑らかな場合には、コーシーの折れ線は、
(2.1)の解に収束することが証明される。
1.3 微分方程式の例
1.落体運動と放物運動
高校の物理で習ったように、質点の落下についての微分方程式は、
(3.1) mx"(t) = mg
で与えられる。ここで、 m は質点の質量、 g は重力加速度を表す。
この方程式の解は、積分により
(3.2) x(t) = (1/2)gt² + v0 t + c
で与えられる。ここで、v0 は、質点の初速度であり、
c は質点が運動を始める位置を表す。
つぎに放物運動を考えよう。
図のように原点から、水平方向となす角 θ の方向に質点を
初速度 v0 で投げるときの運動方程式は
(3.3) mx"(t) = 0, my"(t) = - mg
で与えられる。 ここで、初期条件は
(3.4) x(0) = 0, y(0) = 0 ;
x'(0) = v0 cos θ, y'(0) = v0 sin θ
となる。従って、積分によりこの微分方程式を解く事により
(3.5) x(t) = v0 t cos θ, y(t) = - (1/2)gt² + v0 t sin θ で与えられる。
2.単振子
下図のような単振子を考える。
質量 m の質点に長さ l の糸を付けて、
一端を固定して鉛直面内で円弧を描くように振らせる。
このとき、この糸と鉛直方向とのなす角を θ とすると、運動方程式は
(3.6) mlθ"(t) = - mg sin θ
となる。 θ が小さい時、 sin θ = θ と見なすと、微分方程式は線形となり、
解は、後の議論により
(3.7) θ(t) = C1 sin αt + C2 cos αt
で与えられる。ここで、 α = √(l/g) である。
3.平面上の円の方程式
(x,y) 平面上の曲線 y = f(x) が十分滑らかとする。 このとき、この曲線の曲率は、
y"/(1+y'²)³/²
で表わされる。
この曲率が一定のとき、つまり
(3.8) (d/dx) y"/(1+y'²)³/² = 0
なるときを考える。 (3.8) を実際に計算して整理すると
(3.9) y"'(1+y'²) - 3y'y''² = 0
が得られる。 (演習問題)
(3.9) は、 3階の非線形微分方程式である。 この微分方程式を解くのは難しいが、
一般解は、
(3.10) x² + y² + 2ax + 2by + c = 0 (a² + b² > c)
で与えられることが知られている。 ここで、 a, b, c は任意定数である。
(3.10) を、 3回微分して定数 a, b, c を消去すれば微分方程式 (3.9) が得られる。
これを確かめてみよ。 (演習問題)
さて、(3.10) は一般の円の方程式を表すので、
曲率一定な曲線は円
ということができる。
4.熱伝導の方程式
熱伝導の方程式とは、時間と共にその物質の温度分布がどのように推移するかを、
表現した偏微分方程式である。
3次元 (x,y,z)-空間内の物体 G の時刻 t における温度 u = u(x,y,z) は、
偏微分方程式
(3.11) (∂/∂t) u = (∂²/∂x²) u + (∂²/∂y²) u + (∂²/∂z²) u
をみたす。この方程式を 熱伝導の方程式(熱方程式) という。 微分作用素
(∂²/∂x²) + (∂²/∂y²) + (∂²/∂z²) ≝ Δ
のことを(3次元)ラプラシアン という。数理物理上、最も重要な作用素の1つである。
空間次元が1のときの熱方程式は、
(∂/∂t) u(t,x) = (∂²/∂x²) u(t,x)
空間次元が2のときは、
(∂/∂t) u(t,x,y) = (∂²/∂x²) u(t,x,y) + (∂²/∂y²) u(t,x,y)
である。
このようなタイプの方程式を、放物型偏微分方程式 という。
5.振動の方程式
振動の方程式とは、物体の振動現象(変位が時間と共に、どのように推移するか)を、
記述した偏微分方程式である。
3次元 (x,y,z)-空間内の振動する物体 G の時刻 t における変位 u = u(x,y,z) は、
偏微分方程式
(3.12) (∂²/∂t²) u(t,x,y,z) = Δ u
をみたす。 この方程式を 振動の方程式(波動方程式)という。
空間次元が1のときの波動方程式は、
(∂²/∂t²) u(t,x) = (∂²/∂x²) u(t,x)
空間次元が2のときは、
(∂²/∂t²) u(t,x,y) = (∂²/∂x²) u(t,x,y) + (∂²/∂y²) u(t,x,y)
である。
このようなタイプの方程式を、双曲型偏微分方程式 という。
これで、第1章はおしまい。
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