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2018年6月26日火曜日

微分方程式講義 (2018年版)XIII

5.2 変数係数連立線形微分方程式


この節では、 A(x) = (aij(x)) を n×n  行列関数として、 連立微分方程式

(5.15)     y' = A(x)y  + f(x),    x ∈ R  

を考えよう。 ここで、 aij(x) は、実数上の連続関数、 

f(x) は、実数上の連続なベクトル関数とする。 

まず 行列のノルムを定義しよう。  A = (aij) とする。 

x(x1,  x2,  ・・・ , xn )t  として、 A のノルム ||A|| を


                    ||A|| =  sup { ||Ax||/ ||x|| : ||x||≦ 1 } 


により定義する。 このとき、次の補題がなりたつ。


補題 1   (i)    ||Ax|| ≦ ||A||・||x||,     ∀x ∈ R 

(ii)       ||AB|| ≦ ||A||・||B||,       ||A+B|| ≦ ||A|| + ||B||    


(iii)       ||A|| = 0   ならば   A = O   (零行列)     

証明は、演習問題とする。 次に 行列関数の微分、積分を A(x) = (aij(x)) 
として、

 dA(x)/dx = (daij(x)/dx)        または、単に   A'(x) = (aij'(x))  

         [a,b] A(x) dx = (∫[a,b] aij(x) dx)  

により定義する。 つまり、行列関数の微分、積分を各要素ごとの微分、積分で定義する訳

である。 つぎの補題も積の微分公式より明らかであろう。


補題 2    y(x)  を n-ベクトル関数として 

z(x) =  A(x)y(x) とおく。 このとき、

 (5.16)            z'(x) = A'(x)y(x) +  A(x)y'(x)



つぎに 行列微分方程式の初期値問題 

 (5.17)            Y'(x) = A(x)Y(x),    ∀x ∈ R ;  Y(x0) = E

   を考える。 ここで、 E は n×n  単位行列とする。  (5.17)  を解くことと、積分方程式 

 (5.18)            Y(x) = E + [x0,x] A(t)Y(t)dt,    ∀x ∈ R

  を解くこととは同値である。 


定理 3  初期値問題 (5.17) の解 Y(x) = Y(x; x0),   x ∈ R  

 が唯一つ存在する。


(証明) 1節と同様に ピカールの逐次近似法 により証明する。 

まづ、 任意の正数 k>0 を固定して、 

閉区間 |x - x0 | ≦ k  上で 積分方程式 (5.18)  を考える。  

第0近似を  Y0(x) = E,   |x - x0 | ≦ k  

逐次的に 第n近似を 

 (5.19)   Yn(x) = E  +  [x0,x]  A(t)Yn-1(t) dt,   n ≧1,     |x - x0 | ≦ k  

により定義する。このとき、 

        Yn+1(x) - Yn(x)  [x0,x]  A(t)(Yn(t) - Yn-1(x))dt

であるから、補題1より


(5.20)  ||Yn+1(x) - Yn(x) || = ||[x0,x]  A(t)(Yn(t) - Yn-1(x))dt ||
                         ≦|[x0,x]  ||A(t)|| ||Yn(t) - Yn-1(x)||dt| 
                   ≦ Mk[x0,x] ||Yn(t) - Yn-1(x)||dt| 


ここで、 M= max { ||A(x)||  : |x - x0 | ≦ k  } > 0 は、k に関係する有限の値

である。 

 ||Y1(x) - Y0(x) || = ||[x0,x]  A(t)dt ||≦ Mk[x0,x] 1dt|=  Mk|x -x0

 なので、1節と同様にして


(5.21)    ||Yn+1(x) - Yn(x) || ≦ (Mk )n+1 |x - x0 |n+1 /  (n+1)! 

                                       
 を得る。 これより

                Yn(x) = E + ∑k=1n [Yk(x) - Yk-1(x)],      |x - x0 | ≦ k  


は、区間 [x0- k, x0+k]  で一様に 連続関数 Y(x) に収束する。 よって (5.19)  で

n → ∞ として Y(x) が (5.18)  を 区間 [x0- k, x0+k]  

で満たすことがわかる。

k は任意だったので結局 全ての x ∈ R に対して Y(x) が構成されて、(5.18) 

なりたつ。  解の一意性の証明は、定理1の証明と同じなので、略す。  ■


定理3 の解 Y(x) =Y(x; x0) を (5.18) の遷移行列 といい、 

Φ(x, x0) で表す。

このとき 遷移行列  Φ(x, x0) は、つぎの補題をみたす。


補題 3    Φ(x, x0) は、 つぎの関係式をみたす。 

 (5.22)    dΦ(x, x0)/dx = A(x)Φ(x, x0),   Φ(x0, x0) = E,    ∀x, x0 ∈ R


この補題をつかうと、次の定理が証明される。


定理 4  初期値問題 

(5.23)     y' = A(x)y + f(x),    x ∈ R ;  y(x0) = c    

の解は、  

(5.24)    y(x) = Φ(x, x0)c  + [x0,x]  Φ(x, t)f(t) dt,    x ∈ R 

で与えられる。 

(証明) (5.24) で与えた y(x) が (5.23) をみたすことを示せばよい。 補題3より
 

 
y(x0) = Φ(x0, x0)c = Ec = c,

 

また 補題2 と積分下での微分公式により


 
 
 
y'(x) = Φ'(x, x0)c  + Φ(x, x)f(x) + [x0,x]  Φ'(x, t)f(t) dt  


         = A(x)Φ(x, x0)c  + Ef(x) + [x0,x]  A(x)Φ(x, t)f(t) dt 

         = A(x)(Φ(x, x0)c  + [x0,x] Φ(x, t)f(t) dt ) + f(x)  

         = A(x)y(x)  + f(x),     x ∈ R  


 と なり、(5.23) がみたされる。   ■

応用数理C講義 XII

応用数理C講義の12回目では、まづ円板上でのヘルムホルツ方程式境界値問題を解くことを考える。この時パラメータの値の違いから変形ベッセル関数が現われる。その特殊関数を用いて境界値問題の解を与える。ついで2次元および3次元空間全体でのポアソン方程式の解のグリーン関数による表示をフーリエ変換の手法を用いて説明する。その証明は高度な理論(超関数のフーリエ変換論)が必要となるので概略に留める。








講義の回数は12回だが、実際の講義では14回分に対応している。ということで以上で授業における講義原稿は終了する。

次回からは(講義では話せないが)補足として2次元以上の波動方程式を取り扱う。

応用数理C レポート問題2


今年度2回目のレポート問題をアップする。6月27日の講義日に配布の予定です。もし欠席等で問題が入手できなかった場合には、これをプリントアウトして解答してください。


提出日は、7月18日。(11日はお休みでした。)遅れる事は、原則許されない。遅れても受理はするが、減点の対象とする。前回と同じく、採点は、全面的にTutor の学生さんに任せている。

レポート問題3は、定期試験日が締切です。これ以降は受け付けません。試験終了後に提出してください。

試験日は8月1日である。あと1ヶ月と少しなので頑張って解いてください。




微分方程式講義 (2018年版)レポート問題2

今年度の2回目のレポート問題をアップする。6月27日の講義日に配布の予定です。もし欠席等で問題が入手できなかった場合には、これをプリントアウトして解答してください。

提出日は、7月18日。(11日はお休みでした。)遅れる事は、原則許されない。遅れても受理はするが、減点の対象とする。とにかく、できる問題から早目に解いておくことが望ましい。前回と同じく、採点は、全面的にTutor の学生さんに任せている。

レポート問題3は、定期試験日が締切です。これ以降は受け付けません。試験終了後に提出してください。

試験日は8月1日である。あと1ヶ月と少しなので頑張って解いてください。




2018年6月18日月曜日

微分方程式講義 (2018年版)XII

微分方程式講義の12回目は5章からである。今回は時間がとれず手書き部分のTex化は出来ず前年度原稿の微小な変更に留まった。ご容赦願う。(後注:遅ればせながら図の部分を除いて式だけの部分はTex化した。)


第5章 連立微分方程式の初期値問題


5.1 初期値問題の解の存在と一意性

この節では、連立方程式系に対する解の存在一意性を論ずる。

考える微分方程式は、 非線形の 連立微分方等式 

(5.1)               y1' =  f1 (x, y1 , y2 ,   ・・・ , yn )

 
                        y2' =  f2 (x, y1 , y2 ,   ・・・ , yn )
                                      ・・・           ・・・
           ・・・  ・・・
                        yn' =  fn (x, y1 , y2 ,   ・・・ , yn )

である。  ここで、 f (x, y1 , y2 ,   ・・・ , yn ) (j =1, ・・・ , n)    は、

n+1 変数の関数である。

連立方程式 (5.1) に対する初期条件を 

(5.2)      y1(a) = b1 ,  y2(a) = b2 ,  ・・・ , yn (a) = bn 
 

とする。 初期値問題 (5.1), (5.2)   のベクトル表示を与えよう。 

y(y1y2,  ・・・ , yn )t  とし、 ベクトル y のノルム(長さ)を 

   || y || = √(y1² + y2²  + ・・・ +  yn² )


と定める。 b(b1b2,  ・・・ , bn )t  とし ベクトル値関数  f(x,y)

 f(x,y)  =  (f1 (x, y1 ,y2 ,   ・・・ , yn ),  f2 ((x, y1 ,y2 ,   ・・・ , yn ),

              ・・・ ・・・ , fn(x, y1 ,y2 ,   ・・・ , yn ) )t  


 とおく。 このとき、初期値問題 (5.1), (5.2)  は、

 (5.3)               y' f(x,y),    y(a) = b  


 と書くことが出来る。 ここで、 y'(y1',  y2',  ・・・ , yn')t  である。  

 (5.3) に関して  閉領域 D 

             D = {(x, y) : |x-a| ≦ r,  ||y - b || ≦ ρ}

により定義する。 f(x,y) は、上で連続と仮定する。 

このとき、 ある定数 M>0 が存在して


(5.4)                   || f(x,y) || ≦ M ,         (x,y) ∈

がいえる。 さらに、次のリプシッツ条件を与える。

(5.5)    ∃ L>0;    || f(x,y) - f(x,z)  || ≦ L|| y - z ||,     (x,y),  (x,z) ∈ D

さて、 y が 初期値問題 (5.1), (5.2)  、解であることと、 y 積分方程式

(5.6)               y(x) =  b +  [a,x] f(t,y(t)) dt ,    |x-a| ≦ r  


の解であるとは、同値であることを注意しておく。 単に積分をすればよいからである。

リプシッツ条件  (5.5) のもとで、初期値問題  (5.3) 解の存在一意性の定理

証明することができる。 


ルドルフ・リプシッツ (1832年5月14日-1903年10月7日)

ドイツの数学者。偏微分方程式論および数論において多くの業績を残した。


その前に、 リプシッツ条件  (5.5) がなければ、解の一意性は保証されない事を反例に

より示そう。 同時に無数の解が存在し得ることも示す。



この節の目的は、ピカールの逐次近似法 を用いて解の存在一意性の定理を証明すること

である。


エミール・ピカール(1856年7月24日 - 1941年12月11日)

フランスの数学者。パリ出身。ピカールの定理やピカールの逐次近似法等の証明で知られる。




定理 1  リプシッツ条件  (5.5) の下で、 初期値問題 

 (5.3)               y' f(x,y),    y(a) = b  

の解は、  r' = min { r,  ρ/M } として 区間 [a - r', a + r'] 

上で唯一つ存在する。 ここで M > 0 は (5.4) で与えた定数。


証明を与える前に ピカールの逐次近似法 を説明する。 

これは、 初期値問題 (5.3)  つまり 

積分方程式 (5.6)  の近似解を文字通り逐次的に構成する方法である。 

第0近似を  y0(x) ,   (適当にとればよい)

第1近似を  y1(x) = b +  [a,x] f(t, y0(t)) dt ,

第2近似を  y2(x) = b +  [a,x] f(t, y1(t)) dt ,

 ・・・ ・・・ ,

第n近似を  yn(x) = b +  [a,x] f(t, yn-1(t)) dt , 

により 近似列  { yn(x) }  を作り  yn(x) が x=a  を中心とする適当な閉区間 I 上で 

 y(x) に一様収束すれば その  y(x) は、その作り方から

             y(x) = b +  [a,x] f(t, y(t)) dt


をみたすので、 積分方程式 (5.6)  の解になる。 このような近似の仕方を、

ピカールの逐次近似法 という。


定理1の証明)  y0(x) = b  として、 I = [a - r', a + r']   とおく。 

I 上の 初期値問題(5.3) の逐次近似解  yn(x)  

(5.7)          yn(x) = b +  [a,x] f(t, yn-1(t)) dt ,   x ∈  I = [a - r', a + r']    

とおく。 まづ、定義された区間 [a - r, a + r]  を I に制限する事により、 

yn(x)  定義 (5.7) 有効になることを確かめよう。 

数学的帰納法を使ってこの事を示そう。 yn(x)  が区間

I = [a - r', a + r'] 上で定義されているとする。 つまり、 

(5.8)       || yn(x) - b || ≦  r' = min { r,  ρ/M } ≦ r

とする。 このとき  

(5.9)     || yn+1(x) - b || ≦  ||  [a,x] f(t, yn(t)) dt || ≦ | [a,x] ||f(t, yn(t)) || dt| 

                                            ≦  | [a,x] M dt| = M |x - a | ≦ Mr' ≦ M・ρ/M =  ρ,     x ∈  I

となるから、 yn+1(x)  区間 I = [a - r', a + r'] 上で定義される。 

さて、 リプシッツ条件  (5.5) より
 

 
(5.10)     || yn+1(x) - yn(x)  ||  ≦  ||  [a,x] [f(t, yn(t)) -  f(t, yn-1(t))] dt ||  

 

                    ≦  | [a,x] || f(t, yn(t)) -  f(t, yn-1(t)) || dt |

                                          ≦  | [a,x] L|| yn(t) -  yn-1(t) || dt |  =  L | [a,x] || yn(t) -  yn-1(t) || dt | 

を得る。 n=1 のとき、  

     || y2(x) - y1(x)  || =  || [a,x] [f(t, y1(t)) -  f(t, b)] dt ||   
      
                                        ≦  L | [a,x] [|| f(t, y1(t))|| +  || f(t, b) || ] dt |   L (2M |x-a|)  = LN |x - a |

ここで、 N=2M である。 n=2  として上の不等式を使うと、

          || y3(x) - y2(x)  ||    | [a,x] || f(t, y2(t))-  f(t, y1(t)) ||  dt |   L | [a,x] || y2(t)-  y1(t) ||  dt |

                                        ≦ | [a,x] LN |t - a | dt |   L² N (|x - a |²) /  2!
  
再び不等式 (5. 10) で n=3  として上の不等式を使って積分を計算すると、


  || y4(x) - y3(x)  ||    L | [a,x] || y3(t)-  y2(t))||  dt |

                                 ≦  | [a,x] L² N (|t - a |²) /  2! dt |   L³ N (|x - a |³) /  3!

が得られる。 この事を繰り返すと 
                                     

  (5.11)     || yn+1(x) - yn(x)  ||     Lⁿ N (|x - a |ⁿ) /  n!   Lⁿ N(r')ⁿ /  n!,    x ∈  I

が示される。 これは、 絶対値関数項の級数 




初期値問題 (5.3)  の区間 I 上の2つの解 y(x),  z(x)  があったとする。 このとき、 

リプシッツ条件  (5.5) により 

(5.13)     || y(x) - z(x)  ||  ≦  ||  [a,x] [f(t, y(t)) -  f(t, z(t))] dt ||  

                    ≦  L | [a,x] || y(t) -  z(t) || dt | ,      x ∈  I

もし、 a ≦ x ≦ a + r'   ならば、 (5.13) で 

| [a,x] || y(t) -  z(t) || dt | = [a,x] || y(t) -  z(t) || dt    となるから 2章6節 定理3 の 

グロンウォールの不等式 により、 c = 0,  φ(x)  = L として

(5.14)     || y(x) - z(x)  ||  ≦  0,      x ∈  [a, a+r']  

つまり、  y(x) = z(x),      ∀x ∈  [a, a+r']   となる。

 x ∈  [a-r', a]  の場合にも (5.14) と同様の不等式を(5.13) より導くことができる(確かめよ)。


従って、 y(x) = z(x),   ∀x ∈ I  となり 解の一意性が示された。  (証明終) 
  



カール・テオドル・ヴィルヘルム・ワイエルシュトラス(1815年10月31日 – 1897年2月19日)

ドイツの数学者。解析学の基礎分野で多大の貢献を為した。



解の存在区間

必ずしも解は考えられている区間全体で存在するとは限らない。 

次のような場合が起こりうる。 



この事を具体的な微分方程式で見ていこう。



実は、定理1において、リプシッツ条件  (5.5) は、解の存在のためには不要である。 

つまり、次の コーシー・ペアノの定理 がなりたつ。



定理 2  初期値問題 

 (5.3)               y' f(x,y),    y(a) = b  

の解は、  r' = min { r,  ρ/M } として 区間 [a - r', a + r'] 上で

少なくとも一つ存在する。 


定理2 の証明は、コーシーの折れ線法 を使うが、関数族の一様有界性同程度連続性 

という概念も使うので、 議論が高度になり、本講義では省略する。





ジュゼッペ・ペアノ(1858年8月27日– 1932年4月20日)

イタリアの数学者。トリノ大学教授。自然数の公理系 (ペアノの公理)、ペアノ曲線の考案者として知られる。