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2018年7月25日水曜日

微分方程式講義(2018年版)XVII

微分方程式講義の追加原稿の2回目


6章
の残りの部分の講義原稿とポアンカレ・ベンディクソンの定理についての注釈を最後に加えよう。



6.4 極方程式と解の挙動


 相空間が2次元で、原点  = ( 0, 0 )  が連立微分方程式の平衡点であるとしよう。

このとき、ゼロ解の安定性や、原点の近傍での解の挙動を調べるのに、

極座標変換が有効になる場合がある。 

 この節では、極微分方程式を導入することにより、解の安定性の議論が

より自然に行われる場合のあることを見ていこう。 a,b,c,d を定数として 微分方程式


(6.14)        x˙ =  ax + by + f(x,y)   
                  y˙ =  cx + dy + g(x,y)  



 を考えよう。 ここで、 f(x,y), g(x,y) は原点の近傍で与えられた関数で

f(0,0)=0,    g(0,0)=0  とする。

これに対し、極座標変換

(6.15)      x = r cos θ,    y = r sin θ        
     
を考える。 

(x,y) が時間 t の関数なので (r,θ) 時間 t の関数と考える。

このとき、合成関数の微分法則より

     x˙ = cos θ - r θ˙ sin θ                    
     y˙ = sin θ + r θ˙ cos θ   



 xcos θ + ②xsin θ より、

     x˙cos θ +  sin θ =   (cos² θ + sin² θ) =      

 xsin θ - xcos θ  より、

   -x˙sin θ +  cos θ =  rθ˙ (cos² θ + sin² θ) =  rθ˙  

つまり、

(6.16)        r˙ =  x˙cos θ +  sin θ 
                 rθ˙ x˙sin θ -  cos θ

だが、これに (6.15) を用いて (6.14) を代入すると、


 r˙ =  (ax + by + f(x,y))cos θ +  (cx + dy + g(x,y))sin θ 
     =  (ar cos θ + br sin θ + f(r cos θ, r sin θ))cos θ 
       +  (cr cos θ + dr sin θ + g(r cos θ, r sin θ))sin θ 
        =  r{a cos² θ + (b+c) cos θ sin θ + d sin² θ}
       +  f^(r, θ) cos θ  + g^(r, θ) sin θ 

 となる。 ここで、

f^(r, θ) = f(r cos θ, r sin θ),     g^(r, θ) =  g(r cos θ, r sin θ)

同様の計算により

rθ˙  x˙sin θ -  cos θ

    = r {c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ}

          -  f^(r, θ) sin θ  + g^(r, θ) cos θ 


以上を纏めて、極微分方程式

(6.17)        r˙ =  r{a cos² θ + (b+c) cos θ sin θ + d sin² θ}

                   
       +  f^(r, θ) cos θ  + g^(r, θ) sin θ ,

                 θ˙  =  (c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ)

                         + (1/r) {-f^(r, θ) sin θ  + g^(r, θ) cos θ} 


が得られる。 

このとき、ゼロ解の安定性の定義より、つぎの定理が成り立つことは明らかであろう。



定理 3 (i) t ≧ t0  で定義された (6.14) のゼロ解安定である。
 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0  に対し、  

ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで  
   
    r(τ) < δ  ⇒ r(t) < ε  (t ≧ τ )
           
     とできる。


  (ii) t ≧ t0  で定義された (6.14) のゼロ解漸近安定である。
  任意時間 τ ≧ t0   に対し  ある δ = δ(τ) を選んで  
   
     r(τ) < δ  ⇒    lim t →∞ r(t) = 0
           
   とできる。



また、 lim t →∞ r(t) = ∞ ということは、解軌道が原点から遠く離れていくことを

意味する。

θ  = θ(t) については、 lim t →∞ θ(t) = ∞ または lim t →∞ θ(t) = ∞ は、

解が原点の周りを正の方向、または負の方向にくるくる周ることを意味する。

それでは、例をあげていこう。











上の (ii), (iii) の事実から、原点安定であることが分かる。

さらに、原点の任意の近傍無数安定解不安定解が存在していることが分かる。


教科書の例題4.3では、 cos が現われているが、上の 例 3 と同じように sin  の間違いである。訂正しておく。



追加記事


ポアンカレ・ベンディクソンの定理にはいくつかの表現方法があるが、

よく知られたその一つを挙げる。


ポアンカレ・ベンディクソンの定理


相空間(平面)上の次のように定義された力学系を考える。

          x˙ =  f(x,y),        y˙ =  g(x,y)  

ここで S を平衡点を含まない有界閉集合とする。  

また S を含む開集合で f, g は C1級関数とする。

もしある解軌道が S 上に留まりつづけるならば、

解軌道は、閉軌道そのものか、または閉軌道に収束する。



上の例3はそのような閉軌道無数にある場合を与えている。 



ジュール=アンリ・ポアンカレJules-Henri Poincaré、1854年4月29日 – 1912年7月17日)

ナンシー生まれのフランスの数学者。数学、数理物理学、天体力学などの重要な基本原理を確立し、功績を残した。先年解決されたポアンカレ予想でも有名。


また、電気回路に現れる非線形振動として有名なファン・デル・ポール振動子は、

唯一つの極限閉軌道リミットサイクル)を持っている。 つまり、

ファン・デル・ポールの方程式

0



の解軌道については、 平面上に唯一の安定なリミットサイクルを持つ。


解軌道の動きの図


ファン・デル・ポール  (27 January 1889 – 6 October 1959)

オランダの理論物理学者。 英語によるWiki解説は、Dr. Balthasar van der Pol 




以上で微分方程式講義2018年版は終了する。

阪大の学生さん、そしてそれ以外の読者の皆様ごきげんよう。私にとってはこの講義は退職後の生き甲斐であり学生さんに接するのは何よりの楽しみでした。皆さんありがとう。さようなら。

微分方程式講義 (2018年版) 教科書の誤植のお知らせ

すっかり忘れていましたが、教科書の誤植をお知らせする。

修正部分を  で書き直しているので注意して見てください。









以上です。

2018年7月24日火曜日

微分方程式講義 (2018年版)XVI

微分方程式講義の追加原稿1回目

今回は試験ともレポートとも関係ないのだが、

相軌道解析においては安定性の議論は必須なのでここで解説する。


6.3 解の安定性について


 この節では、ベクトル微分方程式に対する解の安定性の議論を行う。
ベクトル x = ( x1, ・・・, xn ) ,  とベクトル値関数 
f(t, x) = ( f1(t, x1, ・・・, xn ), ・・・, fn(t, x1, ・・・, xn ) ) 

に対して連立微分方程式
 
(6.6)         =  f(t, x   

を考える。 この微分方程式に対し初期条件

(6.7)        x(τ)  =  c   
をみたす解を  x =  x(t ; τ, c)   と書く。 


ここで、微分方程式 (6.6) は、初期条件 (6.7)  のもとで、

唯一つの解を持ち、しかもその解は、 t → ∞ まで定義されているとする。

このとき、つぎの 安定性 の定義を与える。 


定義 (i) t ≧ t0  で定義された (6.6) の解 x0(t)  が安定である。
⇔ 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0  に対し、  ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで  
   
    || x0(τ) - c || < δ  ⇒ || x(t ; τ, c) - x0(t) || < ε  (t ≧ τ )
           
     とできる。


  (ii) t ≧ t0  で定義された (6.6) の解 x0(t)  が
   漸近安定である。
⇔  任意時間 τ ≧ t0   に対し  ある δ = δ(τ) を選んで  
   
    || x0(τ) - c || < δ  ⇒    lim t →∞ || x(t ; τ, c) - x0(t) || = 0
           
   とできる。

何やら、定義は ε-δ 論法を使っていて分かりにくいが、感覚はつぎの通りである。

安定性その解の近いところから出発した解は、常にその解の近くにとどまる

漸近安定性その解の近いところから出発した解は、時間がたつにつれその解に近づく


さて、x0(t)  が (6.6)  の解であるとき、  

                             f1(t, x) = - x0˙ + f(t, x + x0(t))    

 とおくと、 微分方程式

(6.7)         =  f1(t, x

は、    x(t) ≡ 0  を解にもつ。 

したがって、 (6.6) の解 x0(t)  安定性漸近安定性 調べることと、 

f(t, 0) = 0  のもとで  

(6.7) の零解 x(t) ≡ 0   の 安定性漸近安定性 を調べることは同値である。

さて、前節で調べたことから、つぎのことが確認できる。

 A = ( ( a, c )t , ( b, d )) を 2×2 行列として、

(i) の場合、(ホ)の場合のみ、

つまり  λ1 ,  λ2 が共に、負の場合のみ、解軌道は原点に向かう。
   
(ii) の場合、(ハ)、(ハ)' の場合のみ、

つまり Aの固有値の実部が負の場合、解軌道は原点に向かう。 

(ロ)、(ロ)' の場合、

つまり Aの固有値の実部が 0 の場合、 原点を内側にして回る周期(円)軌道になる。
  
 (iii) の場合、(ハ)の場合のみ、つまり Aの固有値が実数の重根でかつ負の場合のみ、

 解軌道は原点に向かう。

以上の事を纏めて述べると、つぎ定理が得られる。



定理 1 連立線形微分方程式

(6.8)         =  ax + by ,    y˙ =  cx + dy     (a,b,c,d は定数)

に対し A = ( ( a, c )t , ( b, d ))  とおく。 

(1) A の2つの固有値が 

      (i) 負の実数(重根の場合を含む)
または、
      (i) 複素数でその実部は負の実数

ならば、 (6.8) 零解 (x, y) = (0, 0) は、 安定かつ漸近安定

である。

(2) A の固有値 純虚数 ならば、 

零解 (x, y) = (0, 0) は 安定であるが 漸近安定ではない



ぎに、非線形自励系零解漸近安定性の定理を与えよう。 


              x = ( x1, x2 ) ,    A = ( ( a, c )t , ( b, d ))



        f(t, x) = ( f1(t, x1, x2), f2(t, x1, x2) )t      として、 

連立微分方程式




(6.9)         Ax + f(t, x)    



を考える。 ここで、A は定数行列で f(t, x)   は連続かつ滑らかで、


   f(t, 0) = ( f1(t, 0, 0), f2(t, 0, 0))t    = (0, 0)    

とする。 このとき、つぎの定理が成り立つ。



定理 2 微分方程式 (6.9)     において、行列 A は 

定理1(1)の (i) または (ii) の条件をみたすとする。


さらに f(t, x)  が

                 lim ||x||→0 || f(t, x) ||/ ||x|| = 0 ( t について一様)


 をみたすならば、(6.9) の 零解は、 漸近安定 である。


(証明) x(t)  、 [t0, ∞) で定義された (6.9) の解とする。 以下簡単のため、 

t0 = 0 とする。 このとき、 x(0) =  としたときの (6.9) の解は、

5章で証明したように(定数変化公式)、

(6.10)         x(t) exp(tA)c + [0,t] exp((t-s)A) f(s,x(s))ds,   t > 0    

とかける。 さて、A の固有値の実部は負であったから、exp(tA) の性質から、 


ある K>0   と σ>0  が存在して


      || exp(tA)c || ≦ K||c||exp(-σt),    t > 0




とできる。 よって、 (6.10)  より、 



 (6.11)  ||x(t) ||   K||c||exp(-σt) 
         + K[0,t] exp(-σ(t-s))|| f(s,x(s))||ds  



 ところで、定理の条件より、任意の ε > 0 に対して 

ある δ = δ(ε) > 0 を選んで  

    || x || < δ  ⇒   || f(t, x) || ≦ K-1 ε ||x||

とできる。 このとき exp(-σ(t-s)) = exp(σs) exp(-σt)  に注意して、 

(6.11) より 不等式  

(6.12)          exp(σt) || x(t) ||   K||c||+ ε [0,t] exp(σs)||x(s)||ds  

 が成り立つ。  従って、2章6節のグロンウォールの不等式を使うと

              exp(σt) || x(t) ||   K ||c|| exp(εt)
 
 すなわち 


 (6.13)                 || x(t) ||   K ||c|| exp(-(σ-ε)t) ,    t > 0

が成り立つ。 今 正数 ε > 0 を   0 < ε < σ  ととり、 勝手な δ>0 に対し、

初期値 c を
                      ||c|| <  min { δ,  K-1 δ }

ととれば、(6.13)  より、    || x(t) ||  <  δ  がいえるので、零解は安定である。 

ここで、 δ  は任意に小さくとれることを注意する。 

さらに、このとき (6.13) が成り立つので、

           lim t →∞ || x(t) || = 0

が言える。 すなわち、 零解は漸近安定でもある。       ■


最後に例を一つあげる。



教科書の定理3.2の記述は、正確ではないことを注意しておく。

f(t, xについての条件は、

      lim ||x||→0 || f(t, x) ||/ ||x|| = 0 ( t について一様)

で、t∈[t0, ∞) についての一様収束性が必要になる。

さらに結論では漸近安定性(安定でなく)までいえる。


次回は追加原稿の2回目である。