(3章のつづき)
3.3 定係数微分方等式と記号解析
この節では、定数係数の線形方程式の記号解析について述べる。
この手法は一般の 定係数方程式 に適用されるので、この節ではもっぱら
次の n 階方程式 を考える。
多項式の演算子 P(D) のことを、 微分方程式 P(D)y = f(x) に対応する
n 階 の微分演算子 という。
P(D), Q(D) を2つの任意階の微分演算子 とする。 演算子の和 と 積 を
{P(D) + Q(D)}y = P(D)y + Q(D)y, {P(D)・Q(D)}y = P(D){Q(D)}y
により定義する。 このとき、次の性質がなりたつ。
P(D), Q(D), R(D) を3つの微分演算子 として
(i) (結合律) {P(D) + Q(D)} + R(D) = P(D) + {Q(D) + R(D)}
{P(D)・Q(D)}R(D) = P(D){Q(D)R(D)}
(ii) (可換律) P(D) + Q(D) = Q(D) + P(D)
P(D)・Q(D) = Q(D)P(D)
(iii) (分配律) P(D)・{Q(D) + R(D)} = P(D)・Q(D) + P(D)・R(D)
方程式
(3.8) P(D)y = f(x)
の一般解を y = [1/P(D)] f(x) と書くときの演算 [1/P(D)] について考えてみる。
P(D) = D のときは、(3.8) は Dy = f(x) となるから
(3.10) y = [1/D] f(x) = ∫ f(x)dx
であるから、 [1/D] は不定積分 ∫ ・dx をとることを意味している。
ここで積分定数は記号上無視しているのを注意しておく。
次に微分方程式 (D - α )y = f(x) を考えよう。 積の微分公式を考えると
D(exp(-αx) y) = exp(-αx) Dy - α exp(-αx) y = exp(-αx) (Dy - α y) = exp(-αx) (D - α) y
であるから、
D(exp(-αx) y) = exp(-αx) f(x)
となり (3.10) により
y = exp(αx) [1/D]{ exp(-αx) f(x) } = exp(αx) ∫ exp(-αx) f(x)dx
となり、以前導いた公式が形式的に得られる。 次に (D - α )² y = f(x) を考えよう。
2回微分を実行すれば、 D²(exp(-αx) y) = exp(-αx) (D - α )² y はすぐ分かる。 したがって
解 y は、
y = [1/(D - α )²] f(x) = exp(αx) [1/D²]{ exp(-αx) f(x) } = exp(αx) ∫∫ exp(-αx) f(x) dxdx
で与えられる。 同様に積の微分公式(ライプニッツの公式)を使うと
Dⁿ (exp(-αx) y) = exp(-αx) (D - α )ⁿ y なので、 n階方程式 (D - α )ⁿ y = f(x) の一般解は、
y = [1/(D - α )ⁿ] f(x) = exp(αx) [1/Dⁿ]{ exp(-αx) f(x) } = exp(αx) ∫・・∫ exp(-αx) f(x) dx・・dx
で与えられる。
次の定理は、Dⁿ (exp(-αx) y) = exp(-αx) (D - α )ⁿ y と (3.9) から明らかだろう。
定理 8 (平行移動の原理) P(λ) を λ の多項式とする。 微分方程式
P(D - α) y = f(x)
に対して
P(D){exp(-αx) y)} = exp(-αx) f(x)
が成り立つ。
次に α と β を相異なる実数として 2階微分方程式
(3.11) (D - α)(D - β)y = f(x)
を考えよう。 形式的な計算をする。 部分分数展開より
1/(D - α)(D - β) = [1/(β-α)] (1/(D - α) - 1/(D - β) )
となるから、
(3.12) y = [1/(β-α)]{ [1/(D - α)] f(x) - [1/(D - β)] f(x) }
とおくと、 定義により 分母分子をキャンセルして
(D - α)(D - β)y = [1/(β-α)]{ (D - β) f(x) - (D - α) f(x) }
= [1/(β-α)]{ f'(x) - β f(x) - (f'(x) - α f(x))} = f(x)
つまり、 (3.12) は (3.11) の一般解となる。 この事を一般化して部分分数展開を用いると
次の定理が得られる。
定理 9 α₁, ・・・, αn を 相異なる実数とする。 n階微分方程式
(D - α1)・・・(D - αn )y = f(x)
に対して
1/(D - α1 )・・・(D - αn ) = β1[1/(D - α1 )] + ・・・ + βn[1/(D - αn )]
と展開されるならは、 一般解は
y = β1[1/(D - α1 )] f(x) + ・・・ + βn[1/(D - αn )]f(x)
で与えられる。
さて、定数係数の2階方程式
(D² + aD + b)y = f(x) において 特性方程式が虚根を持つ場合を考えよう。
まづ、純虚根 ± βi を持つ場合
(3.13) (D² + β²)y = f(x)
を考える。 一般解は、 y = [1/(D² + β²)] f(x) で与えられる。 部分分数展開をおこなうと、
1/(D² + β²) = [1/(2βi)] (1/(D - βi) - 1/(D + βi ) )
となるから、
y = [1/(2βi)] ( [1/(D - βi)]f(x) - [1/(D + βi)]f(x) )
= [1/(2βi)] (exp(iβ x) [1/D]{exp(-iβ x) f(x)} - exp(-iβ x) [1/D]{exp(iβ x) f(x)} )
となる。 ここで、オイラーの公式
exp(±iβ x) = cos βx ± i sin βx を使って整理すると
y = [sin βx/β] [1/D]{f(x)cos βx } - [cos βx/β] [1/D]{f(x)sin βx }
となる。 これは、以前求めた結果になっている。 次いで、特性方程式が 2虚根 α ± βi
をもつ場合の方程式
(3.14) ((D-α)² + β²)y = f(x)
を考える。 定理 8 を使うと (3.14) から
(D² + β²)(exp(-αx) y) = exp(-αx) f(x)
がいえるので、(3.13) の形になる。 したがって (3.14) の一般解は
(3.15) y = [1/(D-α)² + β²)]f(x) = exp(αx) [1/(D² + β²)]{exp(-αx) f(x)}
= exp(αx) {[sin βx/β] [1/D]{f(x)exp(-αx) cos βx }
- [cos βx/β] [1/D]{f(x)exp(-αx) sin βx } }
次に微分作用素の既約分解を述べよう。
多項式 P(λ) が互いに素な多項式 P1(λ) と P2(λ) を用いて P(λ)=P1(λ)P2(λ)
となっているとする。 このとき、部分分数展開より
(3.16) [1/ P(λ)] = Φ1(λ)/P1(λ) + Φ2(λ)/P2(λ)
となる多項式 Φ1(λ) と Φ2(λ) が存在する。 このとき P(D) y = f(x) の一般解は
y = [1/P(D)]f(x) とかけるが、上の分解から推測されるように、
(3.17) y = [1/P1(D)]{Φ1(D)f(x)} + [1/P2(D)]{Φ2(D)f(x)}
がなりたつ。 これを定理の形にまとめる。
定理 10 互いに素な多項式 P1(λ) と P2(λ) を用いて P(λ)=P1(λ)P2(λ)
となっているとする。 さらに部分分数展開 (3.16) が成り立つとする。 このとき
P(D) y = f(x) の一般解 y は (3.17) で与えられる。
(証明) (3.16) の両辺に P(λ)=P1(λ)P2(λ) をかけると
1 = Φ1(λ)P2(λ) + Φ2(λ)P1(λ)
だから
Φ1(D)P2(D) + Φ2(D)P1(D) = I
ここで、I は恒等作用素 とする。 すなわち任意の関数 y に対して
Φ1(D)P2(D)y + Φ2(D)P1(D)y = y (0)
が成り立つ。 P(D) y = f(x) の両辺に Φ1(D) を施して Φ1(D)P(D) y = Φ1(D)f(x) より
P(D)=P1(D)P2(D)=P2(D)P1(D) および Φ1(D) との可換性 を用いると、
P1(D){Φ1(D)P2(D)y}= Φ1(D)f(x) となり
Φ1(D)P2(D)y = [1/P1(D)]{Φ1(D)f(x)} (1)
同様に
Φ2(D)P1(D)y = [1/P2(D)]{Φ2(D)f(x)} (2)
(1) と (2) を加えて (0) を使えば
y = [1/P1(D)]{Φ1(D)f(x)} + [1/P2(D)]{Φ2(D)f(x)}
が得られる。 (証明終)
ここで演算子 [1/P(D)] についての簡単な一般公式を述べておく。
公式 (1) P(λ)=P1(λ)P2(λ) のとき、 微分方程式 P(D)y = f の一般解は
y = [1/P1(D)]{[1/P2(D)]f} = [1/P2(D)]{[1/P1(D)]f}
であたえられる。
公式 (2) f = f1+ f2 のとき、
[1/P(D)]{f} = [1/P(D)]{f1} + [1/P(D)]{f2}
証明は、明らかだろう。 この公式 (2) を使うと 微分方程式
(D - α)(D - β)y = f(x) (α ≠ β)
の一般解は、
y = [1/(D - α)] [1/(D - β)] f(x) =exp(α x) [1/D] {exp(-α x) [1/(D - β)] f(x)}
= exp(α x) [1/D] exp((β-α) x) [1/D] {exp(-βx)f(x)}
として求められる。
定理 10 をつかうと、多項式の因数分解定理 から次の定理が示される。
演算子 [1/P(D)] についての基本的事項をのべる。
(1) P(D)exp(α x) = P(α)exp(α x)
(2) [1/(D - α)ⁿ]0 = (C1 + C2 x + ・・・ + Cn xn-1 )exp(α x)
(3) P(λ) が、互いに素な多項式 P1(λ) と P2(λ) を用いて P(λ)=P1(λ)P2(λ) となるとき、
[1/P(D)]0 = [1/P1(λ)]0 + [1/P2(λ)]0
(4) [1/(D² + β²)ⁿ]0 = {C1 + C2 x + ・・・ + Cn xn-1 }cos βx
+ {C'1 + C'2 x + ・・・ + C'n xn-1 }sin βx
(証明) (1) あきらか。
(2) [1/(D - α )ⁿ] 0 = exp(αx) [1/Dⁿ]0 = exp(αx) ∫・・∫ 0 dx・・dx (積分はn重)
= exp(αx) ∫・・∫ c1 dx・・dx (積分は(n-1)重)
= ・・・ = (C1 + C2 x + ・・・ + Cn xn-1 )exp(α x)
(3) 定理 10 で f(x)=0 とおけばよい。
(4) (D² + β²)ⁿ = (D + iβ)ⁿ (D - iβ)ⁿ なので、 (2)、(3) を用いて
[1/(D² + β²)ⁿ]0 = [1/(D + iβ)ⁿ]0 + [1/(D - iβ)ⁿ]0
={A1 + A2 x + ・・・ + An xn-1 }exp(-iβx) + {A'1 + A'2 x + ・・・ + A'n xn-1 }exp(iβx)
ここで、オイラーの公式を使い、定数を適当に置き換えれば
[1/(D² + β²)ⁿ]0 = {C1 + C2 x + ・・・ + Cn xn-1 }cos βx + {C'1 + C'2 x + ・・・ + C'n xn-1 }sin βx
が得られる。
このような、記号解析は、定係数連立微分方程式系に対しても適用できる。
これについては、次回にまわそう。
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