5.2 変数係数連立線形微分方程式
この節では、 A(x) = (aij(x)) を n×n 行列関数として、 連立微分方程式
(5.15) y' = A(x)y + f(x), x ∈ R
を考えよう。 ここで、 aij(x) は、実数上の連続関数、 f(x) は、実数上の連続なベクトル関数
とする。
まず 行列のノルムを定義しよう。 A = (aij) とする。
x = (x1, x2, ・・・ , xn )t として、 A のノルム ||A|| を
||A|| = sup { ||Ax||/ ||x|| : ||x||≦ 1 }
により定義する。 このとき、次の補題がなりたつ。
補題 1 (i) ||Ax|| ≦ ||x||, ∀x ∈ Rn
(ii) ||AB|| ≦ ||A||・||B||, ||A+B|| ≦ ||A|| + ||B||
(iii) ||A|| = 0 ならば A = O (零行列)
証明は、演習問題とする。 次に 行列関数の微分、積分を A(x) = (aij(x))
として、
dA(x)/dx = (daij(x)/dx) または、単に A'(x) = (aij'(x))
∫[a,b] A(x) dx = (∫[a,b] aij(x) dx)
により定義する。 つまり、行列関数の微分、積分を各要素ごとの微分、積分で定義する訳
である。 つぎの補題も積の微分公式より明らかであろう。
補題 2 y(x) を n-ベクトル関数として
z(x) = A(x)y(x) とおく。 このとき、
(5.16) z'(x) = A'(x)y(x) + A(x)y'(x)
つぎに 行列微分方程式の初期値問題
(5.17) Y'(x) = A(x)Y(x), ∀x ∈ R ; Y(x0) = E
を考える。 ここで、 E は n×n 単位行列とする。 (5.17) を解くことと、積分方程式
(5.18) Y(x) = E + ∫[x0,x] A(t)Y(t)dt, ∀x ∈ R
を解くこととは同値である。
定理 3 初期値問題 (5.17) の解 Y(x) = Y(x; x0), x ∈ R
が唯一つ存在する。
(証明) 1節と同様に ピカールの逐次近似法 により証明する。 まづ、 任意の正数 k>0 を
固定して、 閉区間 |x - x0 | ≦ k 上で 積分方程式 (5.18) を考える。
第0近似を Y0(x) = E, |x - x0 | ≦ k
逐次的に 第n近似を
(5.19) Yn(x) = E + ∫[x0,x] A(t)Yn-1(t) dt, n ≧1, |x - x0 | ≦ k
により定義する。このとき、
Yn+1(x) - Yn(x) = ∫[x0,x] A(t)(Yn(t) - Yn-1(x))dt
であるから、補題1より
(5.20) ||Yn+1(x) - Yn(x) || = ||∫[x0,x] A(t)(Yn(t) - Yn-1(x))dt ||
≦|∫[x0,x] ||A(t)|| ||Yn(t) - Yn-1(x)||dt| ≦ Mk|∫[x0,x] ||Yn(t) - Yn-1(x)||dt|
ここで、 Mk = max { ||A(x)|| : |x - x0 | ≦ k } > 0 は、k に関係する有限の値
である。
||Y1(x) - Y0(x) || = ||∫[x0,x] A(t)dt ||≦ Mk|∫[x0,x] 1dt|= Mk|x -x0|
なので、1節と同様にして
(5.21) ||Yn+1(x) - Yn(x) || ≦ (Mk )n+1 |x - x0 |n+1 / (n+1)!
を得る。 これより
Yn(x) = E + ∑k=1n [Yk(x) - Yk-1(x)], |x - x0 | ≦ k
は、区間 [x0- k, x0+k] で一様に 連続関数 Y(x) に収束する。 よって (5.19) で
n → ∞ として Y(x) が (5.18) を 区間 [x0- k, x0+k] で満たすことがわかる。
k は任意だったので結局 全ての x ∈ R に対して Y(x) が構成されて、(5.18)
がなりたつ。 解の一意性の証明は、定理1の証明と同じなので、略す。 ■
定理3 の解 Y(x) =Y(x; x0) を (5.18) の遷移行列 といい、 Φ(x, x0) で表す。
したがって、Φ(x, x0) は、つぎの補題をみたす。
補題 3 Φ(x, x0) は、 つぎの関係をみたす。
(5.22) dΦ'(x, x0)/dx = A(x)Φ(x, x0), Φ(x0, x0) = E, ∀x, x0 ∈ R
この補題をつかうと、次の定理が証明される。
定理 4 初期値問題
(5.23) y' = A(x)y + f(x), x ∈ R ; y(x0) = c
の解は、
(5.24) y(x) = Φ(x, x0)c + ∫[x0,x] Φ(x, t)f(t) dt, x ∈ R
で与えられる。
(証明) (5.24) で与えた y(x) が (5.23) をみたすことを示せばよい。 補題3より
y(x0) = Φ(x0, x0)c = Ec = c,
また 補題2 と積分下での微分公式により
y'(x) = Φ'(x, x0)c + Φ(x, x)f(x) + ∫[x0,x] Φ'(x, t)f(t) dt
= A(x)Φ(x, x0)c + Ef(x) + ∫[x0,x] A(x)Φ(x, t)f(t) dt
= A(x)(Φ(x, x0)c + ∫[x0,x] Φ(x, t)f(t) dt ) + f(x)
= A(x)y(x) + f(x), x ∈ R
と なり、(5.23) がみたされる。 ■
5.3 行列の指数関数
前節の結果を、定数行列 A(x) ≡ A = (aij) の場合に考察してみよう。
(5.25) y' = Ay, x ∈ R ; y(0) = c
の解は、 A(x) ≡ A の場合の遷移行列を Φ(x, x0) とすると、
y(x) = Φ(x,0) c とかける。
Φ(x,0) の具体的な形をもとめてみよう。 定理3 の解の構成法により
Y(x) = Φ(x,0) は、次の逐次近似の極限として与えられる。
Y0(x) = E,
Yn(x) = E + ∫[0,x] AYn-1(t) dt, n ≧1
逐次計算していくと、
Y1(x) = E + ∫[0,x] A dt = {E + xA }
Y2(x) = E + ∫[0,x] A{E + tA } dt = {E + xA + x²A²/2}
・・・・ ・・・・
Yn(x) = {E + xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! }
となる。 したがって
Y(x) = Φ(x,0) = lim n→∞ {E + xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! }
となる。 行列のノルムに関して この行列級数は x の任意有限区間上で一様収束する。
今 A の指数関数 exp(A) = eA を
(5.26) exp(A) = ∑n=0∞ Aⁿ/n! = E + A + A²/2 + ・・・ + Aⁿ/n! + ・・・
により定義する。
このとき、明らかに Y(x) = Φ(x,0) = exp(xA) である。 したがって、(5.25) の解は、
y(x) = exp(xA) c = exA c
で与えられる。
補題 4 exp(xA) は、 つぎの関係式をみたす。
(i) exp((x+y)A) = exp(xA) exp(yA), ∀x, y ∈ R
(ii) exp(0A) = E = exp(xA) exp(-xA),
(iii) d exp(xA)/dx = A exp(xA) = exp(xA)A
補題4と定義より、次のことはすぐにわかる。
補題 5 (i) O を零行列とすると 、 exp(O) = E
(ii) exp(A) は常に正則で、 exp(A)-1 = exp(-A)
(iii) exp(P-1 AP) = P-1 exp(A) P
(iv) AB=BA ならば、 exp(A+B) = exp(A) exp(B)
つぎに 2×2 行列に対してその指数関数を計算しよう。
0 件のコメント:
コメントを投稿