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2017年8月7日月曜日

偕老同穴

偕老同穴(かいろうどうけつ)という言葉がありますね。共に爺さん婆さんになるまで暮らし、死んだ後は同じ墓穴に葬られることと辞書にあります。これから転じて夫婦の信頼関係が非常にかたいことを意味する。我々も爺さん婆さんだが、夫婦の仲の善し悪しは別にして、信頼関係が強固でないと日々の生活が保てないという事がつくづく分かってくる。だが、その事の具体的説明を書くのが目的ではない。

今回は偕老同穴を体現している夫婦エビの住居(檻)である海綿の1種であるカイロウドウケツのお話。

カイロウドウケツの群生




カイロウドウケツの骨格 有機質を取り去ったもの。
見事な繊維質で、細工物のようです。





どうして興味を持ったかと言うと、檻から出られない夫婦エビ(ドウケツエビ)の事もあるが、カイロウドウケツの骨格であるガラス繊維構造が低温で形成されるアモルファスで、ナノテクを用いて低温での光ファイバーの製造に役立つ可能性があるということを知ったからです。

Euplectella-Venus Flower Plant




上の動画でみるように、駕篭のような形をした繊細で美しい構造物になっている。

ネイチャーテック研究会の記事より:

カイロウドウケツは深海底の堆積物上に生息する海綿の一種で、ガラス質の骨格でできた駕籠(かご)のような形をしています。

英名で「ビーナスの花籠(はなかご)」と呼ばれるその形の美しさの秘密は、骨格を作る繊細なガラス繊維にあります。

カイロウドウケツは、海水中のケイ酸から変換した二酸化ケイ素(SiO2)を主な材料として、細い針状のガラス繊維で円筒型の駕籠(かご)の構造を作ります。
いくつかのガラス繊維を1つに束ねてより頑丈な「」のようにして、それらでかごを形作る正方形の格子を作り出します。
さらに、正方形の格子の対角線状にもを渡して強化しています。
こうして、カイロウドウケツ複雑で緻密駕籠が出来上がります。


ところで、私たちがガラスを作り出したり、ガラスで何かを形作ったりする時には、必ず高温で作業しなければなりません。
驚いたことに、海の中で生息するカイロウドウケツは、この緻密なガラスの製造を常温でやってのけてしまいます。
彼らは、ガラス繊維の製造の名人なのです。
       

Wikipediaでは、この様に解説されている。

カイロウドウケツ


カイロウドウケツ
Venus Flower Basket.jpg
分類
:動物界 Animalia
:海綿動物門 Porifera
:六放海綿綱 Hexactenellida
:リッサキノサ目 Lyssacinosida
:カイロウドウケツ科 Euplectellidae
:カイロウドウケツ属 Euplectella
:カイロウドウケツ
E. aspergillum
Owen, 1841
学名
Euplectella aspergillum
和名
カイロウドウケツ(偕老同穴)
英名
Venus' Flower Basket


カイロウドウケツ(偕老同穴、Venus' Flower Basket(ビーナスの花かご))

六放海綿綱に属する海綿の仲間である。二酸化ケイ素(ガラス質)の骨格(骨片)を持ち、ガラス海綿とも呼ばれる。その外見の美しさから、しばしば観賞用として利用される。日本では相模湾や駿河湾などで見られる。

概要:

カイロウドウケツ円筒状の海綿で、海底に固着して生活している。体長は5-20cmほど、円筒形の先端は閉じ、基部は次第に細くなって髭状となり接地している。円筒の内部に広い胃腔を持ち、プランクトンなどの有機物粒子を捕食している。分布は1000mほどの深海に限られており、砂や泥の深海平原を好む。

カイロウドウケツ骨片は人間の髪の毛ほどの細さの繊維状ガラスであり、これが織り合わされて網目状の骨格を為している。これは海水中からケイ酸を取り込み、二酸化ケイ素へと変換されて作られたものである。このような珪酸化作用カイロウドウケツに限ったものではなく、他の海綿(Tethya aurantium など)も同様の経路でガラスの骨片を作り、体内に保持している。
カイロウドウケツのガラス繊維は互いの繊維が二次的なケイ酸沈着物で連結されており、独特の網目構造を形作っている。ガラス繊維には少量のナトリウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムといった元素が不純物として含まれる。


Euplectella sp top.jpg
  • 上端部
Euplectella sp fibre.jpg
  • ガラス繊維の拡大
Euplectella sp bottom.jpg
  • 基部


ドウケツエビ

カイロウドウケツの網目構造内、胃腔の中にはドウケツエビSpongicola venusta De Hahn)と呼ばれる小さなエビが棲んでいる(片利共生である)。このエビは幼生のうちにカイロウドウケツ内に入り込み、そこで成長して網目の間隙よりも大きくなる。つまりは外に出られない状態となるのである。


多くの場合、一つのカイロウドウケツの中には雌雄一対ドウケツエビが棲んでおり、二匹が海綿内で暮らす。なお、編み目から入るときの二匹は雌雄が未分化の状態で、内部でやがて雌と雄とにそれぞれ分化する。ドウケツエビは、海綿の食べ残しやガラス繊維に引っかかった有機物を食べて生活している。また、カイロウドウケツの網目がドウケツエビを捕食者から守る効果もあるとされる。

この動画ではドウケツエビが二匹でいるのが見えます。


カイロウドウケツとドウケツエビ

人間との関わり


ヘッケルによるスケッチ。右下にカイロウドウケツが描かれている。


深海を生息域とするカイロウドウケツだが、骨格が珪酸質で比較的保存されやすい事、形状が美しい事から、打ち上げなどの形でしばしば人目に触れる機会があった。ヴィクトリア朝時代のイギリスでは非常に人気があり、当時は5ギニー(現在の貨幣価値で3,000ポンド以上)ほどの値段で売買されたという。

偕老同穴」がカイロウドウケツ中のドウケツエビのつがいを評して用いられ、後に海綿自体の名前になったと言われている。ちなみに日本の文献としては、平治物語の中に「偕老同穴の契り深かりし入道にはおくれ給ひぬ」(上巻第六)というくだりがある。現在でもカイロウドウケツは結納の際の縁起物として需要がある。




工業的応用:

工業的な側面から、カイロウドウケツガラス繊維形成に着目する向きもある。例えば光ファイバーに用いるようなガラス繊維の製造には高温条件が必須であるが、カイロウドウケツはこれを生体内、つまり低温で形成する。
またこのガラス繊維を構成する二酸化ケイ素は結晶質ではなくアモルファスであり、かつ光ファイバーと同じように屈折率の異なるコアとクラッドの構造を持つ。光ファイバーよりも細く曲げに対しても強い。このような低温条件での繊維形成制御機構を解明し、いわゆるナノテクノロジーや光学用途へ応用する事が期待されている。

アメリカのベル研究所が、カイロウドウケツの骨片の光学的性質をテストした。
その結果、ガラス繊維が人工のファイバーケーブルと同じような性質を持っていて、情報通信用に使えるくらい高品質なこと、骨片が驚くほど強くて折れにくいので、電気通信用のワイヤーとして重要な点であることを発見した。

しかしながらその実用化はまだされていない模様である。

それらの解説動画(英語版) 

Biological Fiber Optic Nanotech - Venus' Flower Basket

全体の標本  (三寶院蔵)


頭部  ドウケツエビの夫婦の亡骸が見えるそうである。



海底の砂に埋まっている基部で、ガラス繊維が根っこのようになっている。この袋の中に一生の間に食べた残骸が砂と共に残っている。


生きた工芸品ともいうべき動物ですね。これでおしまい。

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