3.2 ロンスキアンと定数変化法
前回導入したロンスキアンを思い起こそう。
この節ではこのロンスキアンが線形斉次微分方程式 の解から線形非斉次微分方程式 の解を
導くのに重要な役割を演じることを示す。 ここでは特に階数が2の場合を考える。
一般の階数の線形方程式に対しても同様の結果が成り立つことを注意しておく。
変数係数の2階方程式
(3.4) y'' + a(x)y' + b(x)y = f(x), x ∈ I
を考えよう。 f(x) ≡ 0 とおいた 斉次微分方程式 は、
(3.5) y'' + a(x)y' + b(x)y = 0, x ∈ I
である。 ここで、 a(x), b(x), f(x) は実数上のある区間 I で定義されているとする。
(3.4) の一つの特殊解を y₁ とする。 このとき、次の定理がなりたつ。
定理 3 y₁ を (3.4) の一つの特殊解とする。 さらに 斉次方程式 (3.5)
の一般解を y₀ とすると、 非斉次方程式 (3.4) の一般解 y は、
y = y₀+ y₁ で与えられる。
証明は、 y を一般解として y - y₁ を考えればよい。 この差は、 斉次方程式 (3.5) の
一般解になる。
証明は、 y を一般解として y - y₁ を考えればよい。 この差は、 斉次方程式 (3.5) の
一般解になる。
定理 4 y₁, y₂ を 斉次微分方程式 (3.5) の解とする。 このとき、
W[y₁, y₂](x) ≠ 0 または、 W[y₁, y₂](x) ≡ 0 である。
(証明) ロンスキアン W[y₁, y₂] のみたすべき 微分方程式を導けばよい。
定理 4 から、次の定理が直ちにしたがう。
定理 5 a(x), b(x) を区間 I 上の連続関数とする。 x₀ を I 上の1点とする。
このとき、 微分方程式
y'' + a(x)y' + b(x)y = 0
の解で次の条件をみたす解 y₁, y₂が存在する。
y₁(x₀) = 1, y'₁(x₀) = 0 ; y₂(x₀) = 0, y'₂(x₀) = 1.
このとき、 W[y₁, y₂](x) ≠ 0 (x ∈ I) である。
ここで、 W[y₁, y₂](x₀) = (単位行列の行列式) = 1 を注意する。
ここで、 W[y₁, y₂](x₀) = (単位行列の行列式) = 1 を注意する。
定理 6 ベクトル空間
V = {y ; y'' + a(x)y' + b(x)y = 0}
の次元は2である。
(証明) y ∈ V すなわち
y'' + a(x)y' + b(x)y = 0
とする。
y₁, y₂ を定理 5 の2つの解とする。 このとき
W[y₁, y₂](x) ≠ 0 (x ∈ I) であるから、行列式論の
クラーメルの公式 により I 上の関数 c₁(x), c₂(x) で、
c₁(x) y₁ + c₂(x) y₂ = y (1)
c₁(x) y'₁ + c₂(x) y'₂ = y' (2)
となるものが存在する。 (1) を微分して (2) を使うと、
c'₁(x) y₁+ c'₂(x) y₂ = 0 (3)
がしたがう。 さらに、 (2) を微分して
となるものが存在する。 (1) を微分して (2) を使うと、
c'₁(x) y₁+ c'₂(x) y₂ = 0 (3)
がしたがう。 さらに、 (2) を微分して
c'₁(x) y'₁+ c'₂(x) y'₂ + c₁(x) y''₁+ c₂(x) y''₂ = y'' (4)
(1)×b(x), (2)×a(x), (4) を y'' + a(x)y' + b(x)y = 0
に代入して 整理すると
c'₁(x) y'₁+ c'₂(x) y'₂
+ c₁(x) (y''₁+ a(x)y'₁+ b(x)y₁) + c₂(x) (y''₂+ a(x)y'₂+ b(x)y₂) = 0
となり、結局
c'₁(x) y'₁ + c'₂(x) y'₂ = 0 (5)
がいえる。 (3) と (5) および W[y₁, y₂](x) ≠ 0 なることから、
c'₁(x) ≡ 0, c'₂(x) ≡ 0 となり、
c₁(x) = C₁, c₂(x) = C₂ (定数)
がいえる。 つまり、 y = C₁y₁ + C₂ y₂ となり
y は y₁ と y₂ の一次結合である。 これは、V が 2次元であることを示している。
(証明終わり)
一般に、 ロンスキアン が 0 にならない解 y₁, y₂ を (3.5) の
基本解 または 基本解系という。
定理 7 非斉次方程式
(3.4) y'' + a(x)y' + b(x)y = f(x)
の一般解は、
(3.6) y = y₁(- ∫ y₂f(x) / W[y₁, y₂] dx + C₁)
+ y₂(∫ y₁f(x) / W[y₁, y₂] dx + C₂)
で与えられる。 ここで、 y₁, y₂ は (3.5) の基本解とする。
(証明) 定数変化法による証明を与える。
y = c₁(x) y₁+ c₂(x) y₂ とおいて、
c₁(x) , c₂(x) をうまく選んで この y が (3.4) の解になるようにしよう。
この方法は、斉次方程式の解の1次結合における
定数を関数に変えるという意味で、定数変化法 と呼ばれる。
y' = c₁(x) y'₁+ c₂(x) y'₂ + (c'₁(x) y₁+ c'₂(x) y₂) (1)
なので、
c'₁(x) y₁+ c'₂(x) y₂ = 0 (2)
なるようにしよう。 さらに、(1) を微分して (2) を使うと
y'' = c'₁(x) y'₁+ c'₂(x) y'₂ + c ₁(x) y''₁+ c₂(x) y''₂ (3)
となるから、定理 6 の証明と同様に
y'' + a(x)y + b(x)y = f(x) に代入して整理すると、
c'₁(x) y'₁+ c'₂(x) y'₂
+ c₁(x) (y''₁+ a(x)y'₁+ b(x)y'₁)
+ c₂(x) (y''₂+ a(x)y'₂+ b(x)y'₂) = f(x)
となり、
c'₁(x) y'₁+ c'₂(x) y'₂= f(x) (4)
が導かれる。 (2), (4) を c'₁(x) , c'₂(x) について連立して解くと
クラーメルの公式 により
定理 3 と 定理 7 の結論を組み合わせると 次の結果が得られる。
公式 3.1 定数係数の2階方程式
(3.1) y'' + ay' + by = f(x)
の一般解 y は、次で与えられる。
例をいくつか与える。
この節の最後に、ダランベールの階数低下法 について述べよう。
ジャン・ル・ロン・ダランベール(Jean Le Rond d'Alembert、1717年11月16日 - 1783年10月29日)
18世紀フランスの哲学者、数学者、物理学者。百科全書派知識人の中心者。
これは、斉次方程式の1つの解を用いて非斉次方程式の解を求める方法である。
斉次方程式
(3.5) y'' + a(x)y' + b(x)y = 0
の一つの解 y₁ がわかったとする。 非斉次方程式
(3.4) y'' + a(x)y' + b(x)y = f(x)
の一般解を y = uy₁ の形で求めよう。
y' = uy'₁+ u' y₁, y'' = uy''₁+ 2 u' y'₁+ u'' y₁
なので、 (3.4) に代入すると
u'' y₁+ u' (2y'₁+ a(x)y₁) + u(y''₁+ a(x) y'₁+ b(x) y₁) = f(x)
となるが、 y''₁+ a(x) y'₁+ b(x) y₁= 0 であったから
u'' y₁+ u' (2y'₁+ a(x)y₁) = f(x)
これは、 v = u' についての1階線形方程式になる。
v' + [(2y'₁+ a(x)y₁) / y₁] v = f(x)/y₁
したがって
v(x) = exp (-∫ [(2y'₁+ a(x)y₁) /y₁] dx)
×[∫ (f(x)/y₁) exp (∫ [(2y'₁+ a(x)y₁) /y₁] dx) dx]
となる。
ところで、
∫ [(2y'₁+ a(x)y₁) /y₁] dx = 2∫ (y'₁/y₁) dx + ∫ a(x) dx
= 2log y₁ + A(x)
なので
以上をまとめて次の公式を得る。
この公式はロンスキアンを用いて一般のn階の線形方程式に対しても拡張される。
その形式を考えてみよ。
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