第6章 連立微分方程式の解の漸近挙動
6.1 相空間解析
つぎの連立微分方程式の初期値問題を考える。
(6.1) y1' = y2, y2' = - y1 ; y1(0) = c1, y2(0)= c2
この問題の解が、
(6.2) y1(x) = c1 cos x + c2 sin x ,
y2(x) = - c1 sin x + c2 cos x
で与えられることは、5章で証明した。 これを、行列-ベクトル記法で表現してみる。
上図の円周を (6.1) の 解軌道 または 解曲線 という。
このように、独立変数 x が動くとき、解がどのように y1-y2 平面上を動くかを考察するする事
は重要である。 このとき、考察すべき y1-y2 平面を 相空間 と言い、この問題の解析を
相空間解析 という。
通常の記法にならって、この章では、
x → t , y1 → x , y2 → y
として、 相空間 xy 平面上で考えることにする。 また微分の記法を
x˙ = dx/dt , y˙ = dy/dt
のように dot で表す。
さて、相空間解析においては、つぎの形の連立微分方程式が研究の中心になる。
(6.3) x˙ = f(x, y), y˙ = g(x, y)
右辺の関数 f(x, y), g(x, y) が定義域の各点の近傍でリプシッツ連続なるとき、前章で証明した
ように初期値問題の解は一意であるから、 解軌道は交わらない ことがわかる。
システム (6.3) のように、f(x, y), g(x, y) が時間変数 t を含まないとき、 自励系 という。
(6.3) において、f(a, b) = 0, g(a, b) = 0 となる点 (a, b) が存在するとき、 この点 (a, b) を
(6.3) の 平衡点 または 特異点 という。
さて、 (a, b) が (6.3) の 平衡点 して、座標系の平行移動
x゜= x - a , y゜= y - b
を行えば、 微分方程式 (6.3) は、
(6.4) (x゜)˙ = f゜(x゜, y゜), (y゜)˙ = g゜(x゜, y゜)
と書きなおされる。 ここで、
f゜(x゜, y゜) = f(x゜+ a, y゜+ b) , g゜(x゜, y゜) = g(x゜+ a, y゜+ b)
であり、
f゜(0, 0) = f(a, b) = 0 , g゜(0, 0) = g(a, b) = 0
なので、 原点 (0,0) が、 (6.4) の平衡点になる。 従って、 原点が 自励系 (6.3) の
平衡点であるとして一般性は失わない。
次節では、線形微分方程式に対する相空間解析を行う。
6.2 連立線形微分方程式の解軌道
a, b, c, d を定数として、連立線形微分方程式
(6.5) x˙ = ax + by, y˙ = cx + dy
を考えよう。 このとき、 (6.5) は 原点 (0,0) を平衡点として持つ。 (6.5) の解軌道の様子は、
行列 ( ( a, c )t , ( b, d )t ) の固有値 と 固有ベクトル を調べることにより、完全に
きまる。 4章1節で示したように、次の結果がなりたつことを思い出そう。
この解の表示を用いて、t → ∞ としたときの解軌道の様子を描くことができる。
これらは、λ1, λ2 , α, β, λ, の符号や値などによって決まる。
(i) の場合を調べる。 λ1 ≧ λ2 として差し支えない。 逆符号の場合は x と y を入れ替えて
考えればよい。
(ii) の場合はつぎのようになる。
(iii) の場合は、つぎのようになる。
例を2つあげよう。 教科書と同じ方程式の例である。
ここで、 (i), (ii), (iii) の3つの場合に、軌道図を描く際の注意を述べておく。
0 件のコメント:
コメントを投稿