微分方程式講義の追加原稿の2回目
6章の残りの部分の講義原稿とポアンカレ・ベンディクソンの定理についての注釈を最後に加えよう。
6.4 極方程式と解の挙動
相空間が2次元で、原点 0 = ( 0, 0 ) が連立微分方程式の平衡点であるとしよう。
このとき、ゼロ解の安定性や、原点の近傍での解の挙動を調べるのに、
極座標変換が有効になる場合がある。
この節では、極微分方程式を導入することにより、解の安定性の議論が
より自然に行われる場合のあることを見ていこう。 a,b,c,d を定数として 微分方程式
(6.14) x˙ = ax + by + f(x,y)
y˙ = cx + dy + g(x,y)
を考えよう。 ここで、 f(x,y), g(x,y) は原点の近傍で与えられた関数で
f(0,0)=0, g(0,0)=0 とする。
これに対し、極座標変換
を考える。
(x,y) が時間 t の関数なので (r,θ) も時間 t の関数と考える。
このとき、合成関数の微分法則より
f(0,0)=0, g(0,0)=0 とする。
これに対し、極座標変換
(6.15) x = r cos θ, y = r sin θ
を考える。
(x,y) が時間 t の関数なので (r,θ) も時間 t の関数と考える。
このとき、合成関数の微分法則より
x˙ = r˙ cos θ - r θ˙ sin θ ①
y˙ = r˙ sin θ + r θ˙ cos θ ②
①xcos θ + ②xsin θ より、
x˙cos θ + y˙sin θ = r˙ (cos² θ + sin² θ) = r˙
②xsin θ - ①xcos θ より、
-x˙sin θ + y˙cos θ = rθ˙ (cos² θ + sin² θ) = rθ˙
つまり、
①xcos θ + ②xsin θ より、
x˙cos θ + y˙sin θ = r˙ (cos² θ + sin² θ) = r˙
②xsin θ - ①xcos θ より、
-x˙sin θ + y˙cos θ = rθ˙ (cos² θ + sin² θ) = rθ˙
つまり、
(6.16) r˙ = x˙cos θ + y˙sin θ
rθ˙ = x˙sin θ - y˙cos θ
だが、これに (6.15) を用いて (6.14) を代入すると、
r˙ = (ax + by + f(x,y))cos θ + (cx + dy + g(x,y))sin θ
= (ar cos θ + br sin θ + f(r cos θ, r sin θ))cos θ
+ (cr cos θ + dr sin θ + g(r cos θ, r sin θ))sin θ
= r{a cos² θ + (b+c) cos θ sin θ + d sin² θ}
+ f^(r, θ) cos θ + g^(r, θ) sin θ
となる。 ここで、
f^(r, θ) = f(r cos θ, r sin θ), g^(r, θ) = g(r cos θ, r sin θ)
同様の計算により
rθ˙ = x˙sin θ - y˙cos θ
= r {c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ}
= r {c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ}
- f^(r, θ) sin θ + g^(r, θ) cos θ
以上を纏めて、極微分方程式
(6.17) r˙ = r{a cos² θ + (b+c) cos θ sin θ + d sin² θ}
+ f^(r, θ) cos θ + g^(r, θ) sin θ ,
θ˙ = (c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ)
+ (1/r) {-f^(r, θ) sin θ + g^(r, θ) cos θ}
が得られる。
このとき、ゼロ解の安定性の定義より、つぎの定理が成り立つことは明らかであろう。
+ f^(r, θ) cos θ + g^(r, θ) sin θ ,
θ˙ = (c cos² θ + (d-a) cos θ sin θ - b sin² θ)
+ (1/r) {-f^(r, θ) sin θ + g^(r, θ) cos θ}
が得られる。
このとき、ゼロ解の安定性の定義より、つぎの定理が成り立つことは明らかであろう。
定理 3 (i) t ≧ t0 で定義された (6.14) のゼロ解が安定である。
⇔ 任意の正数 ε > 0 と任意時間 τ ≧ t0 に対し、
ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで
ある δ = δ(ε, τ) > 0 を選んで
r(τ) < δ ⇒ r(t) < ε (t ≧ τ )
とできる。
(ii) t ≧ t0 で定義された (6.14) のゼロ解が漸近安定である。
とできる。
また、 lim t →∞ r(t) = ∞ ということは、解軌道が原点から遠く離れていくことを
意味する。
θ = θ(t) については、 lim t →∞ θ(t) = ∞ または lim t →∞ θ(t) = ∞ は、
解が原点の周りを正の方向、または負の方向にくるくる周ることを意味する。
それでは、例をあげていこう。
⇔ 任意時間 τ ≧ t0 に対し ある δ = δ(τ) を選んで
r(τ) < δ ⇒ lim t →∞ r(t) = 0
とできる。
また、 lim t →∞ r(t) = ∞ ということは、解軌道が原点から遠く離れていくことを
意味する。
θ = θ(t) については、 lim t →∞ θ(t) = ∞ または lim t →∞ θ(t) = ∞ は、
解が原点の周りを正の方向、または負の方向にくるくる周ることを意味する。
それでは、例をあげていこう。
教科書の例題4.3では、y˙ に cos が現われているが、上の 例 3 と同じように sin の間違いである。訂正しておく。
追加記事
ポアンカレ・ベンディクソンの定理にはいくつかの表現方法があるが、
よく知られたその一つを挙げる。
ポアンカレ・ベンディクソンの定理
相空間(平面)上の次のように定義された力学系を考える。
x˙ = f(x,y), y˙ = g(x,y)
また S を含む開集合で f, g は C1級関数とする。
もしある解軌道が S 上に留まりつづけるならば、
解軌道は、閉軌道そのものか、または閉軌道に収束する。
上の例3はそのような閉軌道が無数にある場合を与えている。
ジュール=アンリ・ポアンカレ(Jules-Henri Poincaré、1854年4月29日 – 1912年7月17日)
ナンシー生まれのフランスの数学者。数学、数理物理学、天体力学などの重要な基本原理を確立し、功績を残した。先年解決されたポアンカレ予想でも有名。
ナンシー生まれのフランスの数学者。数学、数理物理学、天体力学などの重要な基本原理を確立し、功績を残した。先年解決されたポアンカレ予想でも有名。
また、電気回路に現れる非線形振動として有名なファン・デル・ポール振動子は、
の解軌道については、 平面上に唯一の安定なリミットサイクルを持つ。
解軌道の動きの図
ファン・デル・ポール (27 January 1889 – 6 October 1959)
オランダの理論物理学者。 英語によるWiki解説は、Dr. Balthasar van der Pol
ファン・デル・ポール (27 January 1889 – 6 October 1959)
オランダの理論物理学者。 英語によるWiki解説は、Dr. Balthasar van der Pol
以上で微分方程式講義2017年版は終了する。
阪大の学生さん、そしてそれ以外の読者の皆様ごきげんよう。また別の科目の講義原稿を書くかもしれません。その時は、このブログで行いますので、たまには覗いてくださいね。さようなら。
阪大の学生さん、そしてそれ以外の読者の皆様ごきげんよう。また別の科目の講義原稿を書くかもしれません。その時は、このブログで行いますので、たまには覗いてくださいね。さようなら。
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