5.3 行列の指数関数
(5.25) y' = Ay, x ∈ R ; y(0) = c
の解は、 A(x) ≡ A の場合の遷移行列を Φ(x, x0) とすると、
y(x) = Φ(x,0) c とかける。
Φ(x,0) の具体的な形を求めてみよう。 定理3 の解の構成法により
Y(x) = Φ(x,0) は、次の逐次近似の極限として与えられる。
Y0(x) = E,
Yn(x) = E + ∫[0,x] AYn-1(t) dt, n ≧1
逐次計算していくと、
Y1(x) = E + ∫[0,x] A dt = {E + xA }
Y2(x) = E + ∫[0,x] A{E + tA } dt = {E + xA + x²A²/2}
・・・・ ・・・・
Yn(x) = {E + xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! }
となる。 したがって
Y(x) = Φ(x,0) = lim n→∞ {E + xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! }
である。 行列のノルムに関して この行列級数は x の任意有限区間上で一様収束する。
今 A の指数関数 exp(A) = eA を
(5.26) exp(A) = ∑n=0∞ Aⁿ/n!
= E + A + A²/2 + ・・・ + Aⁿ/n! + ・・・
により定義する。
このとき、明らかに Y(x) = Φ(x,0) = exp(xA) である。 したがって、(5.25) の解は、
y(x) = exp(xA) c = exA c
で与えられる。
補題 4 exp(xA) は、 つぎの関係式をみたす。
(i) exp((x+y)A) = exp(xA) exp(yA), ∀x, y ∈ R
(ii) exp(0A) = E = exp(xA) exp(-xA),
(iii) d exp(xA)/dx = A exp(xA) = exp(xA)A
補題4 と 定義より、次のことはすぐにわかる。
補題 5 (i) O を零行列とすると 、 exp(O) = E
(ii) exp(A) は常に正則で、 exp(A)-1 = exp(-A)
(iii) exp(P-1 AP) = P-1 exp(A) P
(iv) AB=BA ならば、 exp(A+B) = exp(A) exp(B)
つぎに 2×2 行列に対してその指数関数を計算しよう。
一般の nxn 行列 A に関しても、Jordan 標準形を用いてその指数関数を計算する方式があるが、ここでは煩雑になるので省略する。
興味のある方は、ジョルダン標準形 行列の指数関数 を見られたい。
これで試験範囲の講義は全て終了する。重要な追加として相空間における解の挙動を調べる問題がある。これは次回以降の講義原稿にまわす。
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