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2018年7月4日水曜日

微分方程式講義 (2018年版)XIV

5.3  行列の指数関数


前節の結果を、定数行列 A(x) ≡ A = (aij) の場合に考察してみよう。 

(5.25)     y' = Ay,    x ∈ R ;  y(0) = c    

    の解は、 A(x) ≡ A の場合の遷移行列を Φ(x, x0) とすると、

        y(x) = Φ(x,0) c      とかける。 


Φ(x,0) の具体的な形を求めてみよう。 定理3 の解の構成法により

Y(x) = Φ(x,0) は、次の逐次近似の極限として与えられる。   



Y0(x) = E, 

Yn(x) = E  +  [0,x]  AYn-1(t) dt,   n ≧1



 逐次計算していくと、 

Y1(x) = E  +  [0,x]  A dt = {E  +  xA } 
Y2(x) = E  +  [0,x]  A{E  +  tA }  dt = {E  +  xA + x²A²/2} 

・・・・   ・・・・

Yn(x) = {E  +  xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! } 


 となる。 したがって



Y(x) = Φ(x,0) = lim n→∞ {E  +  xA + x²A²/2 + ・・・ + xⁿAⁿ/n! } 



である。 行列のノルムに関して この行列級数は x の任意有限区間上で一様収束する。


今 A の指数関数  exp(A) = e  

(5.26)   exp(A) = n=0 Aⁿ/n!  

      = E  +  A + A²/2 + ・・・ + Aⁿ/n! + ・・・ 


により定義する。  

このとき、明らかに Y(x) = Φ(x,0) =  exp(xA) である。 したがって、(5.25) の解は、


           y(x) = exp(xA) c = exA c


で与えられる。


補題 4    exp(xA) は、 つぎの関係式をみたす。 

(i)        exp((x+y)A) = exp(xA) exp(yA),    ∀x, y ∈ R

(ii)       exp(0A) = E = exp(xA) exp(-xA),  


(iii)      d exp(xA)/dx =  A exp(xA) = exp(xA)A     





補題4 と 定義より、次のことはすぐにわかる。


 補題 5    (i)  O を零行列とすると 、 exp(O) = E  


(ii)        exp(A) は常に正則で、 exp(A)-1 = exp(-A)

(iii)       exp(P-1 AP) = P-1 exp(A) P
 
(iv)       AB=BA  ならば、 exp(A+B) =  exp(A) exp(B)
 


つぎに 2×2 行列に対してその指数関数を計算しよう。  







 一般の nxn 行列 A に関しても、Jordan 標準形を用いてその指数関数を計算する方式があるが、ここでは煩雑になるので省略する。

興味のある方は、ジョルダン標準形 行列の指数関数 を見られたい。 

これで試験範囲の講義は全て終了する。重要な追加として相空間における解の挙動を調べる問題がある。これは次回以降の講義原稿にまわす。 

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